母のタイムスリップ日記
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2003年06月12日(木) やわらかな音色に包まれて…

 友人に誘われて 緊急開催されたオーケストラの演奏会に出かけた。
ロイヤルチェンバーオーケストラ。
コバァーチ・デーネシュ氏のバイオリンも…。
弦楽器のやわらかな音色に ゆったりと心身を解してもらった。

余韻に浸りながら、家に戻ったが 家人は誰も帰宅していない。
ちょっと、ほっとする。
自分ばかり楽しんでいるとやはり申し訳ない気がするのだ。

演奏中、ちょっと眠くなった一瞬があった。
心地良すぎたのかもしれない。音楽は、心地よさを引き出すくらいでないと…なんて手前勝手ないい草である。

日中は、母の所に出向いた。午前中 母は泣いたそうである。
職員曰く「塗り絵を思ったように塗れなくて泣いていたようだった」と言っていた。母には、そういう側面がある。
母に「べそかきの日?」と聞くと「うまい事いうねえ」と言う。
何の事はない 先日の母の言葉なのだけれど本人はすっかり忘れている。

居室に移り、母と手ぬぐい取りゲームをした。
片手の親指と人差し指の間に手ぬぐいを置いて其れを取るゲームである。
これは、反射神経が大事である。
取られそうになったら、キュッと握って取られないようにするのだ。
ゲームを始める時は「そんなの出来ない」と言った風な母だったが始めるとキャッキャッと笑い出した。
私も必死である。勿論母も必死。
暫く二人で大笑いをしながら遊んだ。
何だか二人だけではもったいない気がして他の入居者ともそれで遊んだ。
やっぱり、みんな 笑い転げた。
こればっかりは、対等である。それに瞬間のゲームである。
対等に遊べるって楽しい。

その後、母と散歩にでた。
霧雨の川べりは人の姿もないので、大きな声で歌を歌った。
母は「二人で歌うと忘れてつっかえってしまう所もちゃんと歌えるなあ」と喜んだ。勿論身振り手振り付きで歌った。

水の張られた田んぼにカルガモが一羽いた。
「一羽で可哀想だねえ」と母は言った。
「逸れてしまったのかね」と心配そうでもあった。
やはり、物語を作るのである。

散歩から戻ったら、職員が「お買い物に連れ出して良いでしょうか?」と聞いてきた。
「私も夕方から用があるので助かります」とお願いした。
施設を出るときは、母と職員と私の3人であった。
岐路で、「いってらっしゃい」というと母はニコニコしながら「バイバイ」と手を振った。
こんな気持ちの良い別れ方は久しぶりである。

母は、外に出ることが本当に好きなのである。


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