魔球
東野圭吾/講談社文庫。
冒頭の9回裏・2死満塁のピンチで4番打者を迎えるピッチャーの心理描写がすげえ。「応援団の垂れ幕には「必勝 開陽高校」と書かれていたが、めくれてしまい肝心な部分が今は見えない」という描写が好きです。なんだこの臨場感。うおー、ドキドキしるー!!!!!!
さて置いて。
昭和39年を舞台にした青春推理。春の選抜出場校の野球部の、主将兼正捕手が飼い犬と共に殺され、数日後、エースが右腕のない死体となって発見される。
実はこれ、犯人となり得る(アリバイどーこーとか以前にもう小説作法として)人間の数が極端に少なすぎて、推理小説に多少慣れた人間ならすぐに犯人と凡その殺害状況は予想がついてしまう。フーダニットとしては凡作。 ただ、問題は動機な訳で。 読んでる間中は全然気づかなかったんですが、判明してみるともうそれ以外には考えられない、どうしようもなく確固とした動機でした。や、やられた…! そして悲しい物語になりそうな予感は最初からしてたけど、なんちゅう悲しい動機なんだ。
エース須田アニの、自分にも他人にも厳しく勝つためには手段を選ばない性格が、犯人の犯行の動機と大きく関係があるんですが、解説で「歪んだ性格」て書かれてて「えっ、このくらいたまに見るけどなあ!?」て思いました。……少年漫画とかで。少年漫画読み過ぎな私の感覚の方が狂ってんのかもだけど。 天才的な剛速球投手でありながら、家庭の事情で強豪校には進学できず、チームの中で浮いてた須田アニ。死後に発見される、彼が弟にあてた手紙の中の「お前がいたから辛いことも辛抱できた」の一文に、あー、ほんとは色々耐えとったんやと切ない気持ちになる。 彼は野球をやってて、家族のことも将来のことも忘れて、心から野球を楽しんだ瞬間が一瞬でもあったんやろうか。プロになって欲しかった。
2005年02月28日(月)
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