こころの大地に種をまこう 春名尚子の言霊日記

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2002年05月26日(日) 満月の一三祭り in 池上本門寺

 「またか。昌吉さん、ほんまにやりすぎ。」

  会場に着いたとき、私はそう思った。

  何がって?。

  だって、いつものこととはいえ、ハラハラさせすぎなんだもの・・・。



  その日は、東京の池上本門寺で満月の一三祭りと題して、観月の野外コンサートが開催された。

  日蓮大聖人が教えを開いて750年目にあたる本年の満月の夜コンサートをしているという。

  この日記を以前から読んで下さっている人にはもう私のこころが伝わっているかも知れない。

  そう、またしても、日蓮さまだ。ふー。今年は因縁アリだな。



 ホテルで仕事の打ち合わせを終えて、昌吉さんと主催者の方と一緒に会場に向かった。

 グレーの雲が空を覆っている。


 「満月はどうなるんだろう。」

 そう思ったとき、フロントガラスにポツリポツリと水滴が落ちてきた。

「ああ、雨だねえ。」

 彼がそういったとき、車が会場に到着した。 


 ステージでは、チャンプルーズのメンバーが音合わせをしている。
 
 私たちの到着に気がついたベースの亀田さんが満面の笑顔で出迎えた。



 昌吉さんがステージに昇ったその瞬間。


 雷鳴が轟いた。


 リハーサルをはじめようとしたその途端、バラバラと大粒の雨が落ちはじめた。

 と、その雨はバケツをひっくり返したような大雨になった。

 スタッフは機材を雨からかばうために、シートを持って走り回っていた。

 この突然の大雨に当然リハーサルは中止となり、メンバーとスタッフは控え室で雨が止むのを待っていた。


 満月を見るための野外でのコンサート。
 雨で中止になっても困るし、雨が止んでも満月が顔を見せてくれなくても困ってしまう。スタッフの方々は一様に複雑な顔をしていた。


 主催者のこころをほぐそうと、昌吉さんは話しをはじめる。


「神様はたいへんさ。

 こっちでは農民が『お願いです。恵みの雨を降らせて下さい。』とお願いしている。

 すぐ横では、漁民が『お願いです。晴れさせて下さい。』と祈りを捧げている。


 みんなの願いを叶えようとすると、神様はおかしくなってしまう。

 雨も恵み。晴れも恵み。曇りも恵み。

 すべてを受け入れることのできるこころこそ、神につながるこころだと思うね。

 だから、今日もそのこころのままに。

 満月も見えても恵み、見えなくても恵みなんだ。

 ここからは見えなくとも、満月はちゃんとあの雲の向こうで輝いているよ。

 こころの中に、満月が見えるでしょ。」



 しかし、私のこころには、あるひとつの確信があった。

 絶対に、この雨は止む。そして絶対に、素晴らしいことが起きる。

 それはきっと、チャンプルーズのメンバーも同じだったと思う。

 私は8年間喜納昌吉&チャンプルーズとともに仕事をしてきて、

 彼らの祭りと自然現象の不可思議を見せつけられてきたのだ。


 だから、断言できる。必ず・・・。


 どんよりと濃いグレーに染まっていた空に光が射してきた。

 雲が切れたのだ。

 それでも、まだ楽屋から出るには、あまりにもひどい雨が降り続いていた。

 雨が小降りになった頃、待ちきれなくなった私は、

 “ソレ”を探すために空が広く見える場所に飛び出した。


 楽屋口の扉を開けて、観客席の方へ。

 私の身体がステージ左方の五重塔の方をむいたとき、それはそこに“あった”。


 小雨が降りつづけるなか、それでも青く澄んだ空に太陽の光を受けて輝いていた。

 約束されたかのように、空に架けられたおおきなおおきな虹の橋が・・・。


 期待通りとは思ってはいても、興奮を抑えることが出来ずに、楽屋に飛び込んだ。


 「虹!虹が出てる!。」


 「やったぁー!。」


  昌吉さんも、うれしそうにはしゃいで飛び出した。

  その頃には、すっかり雨も止んでひときわ美しい大きな虹を、

  メンバーやスタッフと一緒に見ることが出来た。




 開場時間の少し前、またしても雨が降りだした。

 「それでも、あの虹は約束なんだ。大丈夫、必ず雨は止む。」そう祈りながら、時を待っていた。

 ザンザンと降り続ける雨。その雨がぴたっと止んだのは、7時ジャストのことだった。

 雨すら開演時間オンタイム!。

 そして少し遅れて、喜納昌吉&チャンプルーズが登場する。



 「沖縄よこころをあわせて立ち上がろう このこころを世界へ知らせよう」

  と歌うヒヤミカチ節を皮切りに、ステージははじまった。



    命を育てる海が島を洗う 明日の島

    すべての武器が奪おうとして 

      奪えないもの それは沖縄の熱い願い


  米軍統治下の沖縄に誕生した那覇市長・瀬長亀次郎。

  彼の奮闘を描いた映画「カメジロー・沖縄の青春」の主題歌「明日の島」

 (喜納昌吉は音楽監督を務めている)は、今でも変わることのない沖縄の現状を表現している。


  昌吉さんは、この会場に向かう車の中で、抑えきれない怒りを爆発させていた。

 それは、有事法制への怒りだった。

 「周辺有事などといっても、沖縄はいつも有事だ。

  そして、今度の有事法制は、再び沖縄を戦争に駆り立てるもの。

  もう、こうなったら沖縄は日本から独立するしかないよ。

  独立といっても、新しい国を創るというわけじゃない。

  国境線からも、争いからも、沖縄は独立するんだ。」



  ドドドーン カメジロー ドドドーン 亀さん


  昌吉さんがそう歌ったその瞬間、雷鳴が轟いた。

  そして、喜納昌吉の頭上に稲光が走った。



  昌吉さんや、平和を願う人々の激しい行き場のない想いを、

  天がかわって表現してくれているかのようだった。





   いつか いつかかならず 金網のない世界を・・・





 降ったり止んだり、雨に翻弄されながらも、祭りは続く。


 快適に暮らしたい、お金がほしい、人を蹴落としてでも?、

 戦争はしたくない、環境は破壊したくない、でもこの快適生活はやめることは出来ない、

 もしかするともう引き戻れないところまで来ているのかも知れない、ならばこのままぬるま湯につかっていたい。


 その変わり続ける空の表情が、

 複雑怪奇な現代人のこころを表現しているかのようにも思えた。




 何度も何度も、私は空を見た。

 そして月を探していた。けれど、どこにも見あたらなかった。



 祭りも終盤にさしかかり、「すべての人の心に花を」のイントロがはじまった。


 どこ?。


 後ろを振り向いても月どころか、ほんのり明るい空さえも見つけられない。

 ステージのチャンプルーズを見て、ふと五重塔を眺めた。


 ああ、そこにいらっしゃったのですね・・・。


 真っ黒な空に少しだけ、ほんのすこしだけ明るく白い雲が広がっている。


 昌吉さんが「すべての人の心に花を」を歌い出すと、

 ゆっくりゆっくりと風が吹きはじめ、雲は流れるままに彼方へと消えた。



 そして、大きく美しき月が恥じらいながらもその姿をあらわした。





 そうなのだ、考えてみればその場所以外には有り得なかった。

 なぜすぐに忘れてしまうのだろうか。


 天文的知識があったわけではない、

 けれど私たちはその場所にお月様が顔を見せることは事前に知っていた。



 そう、満月が姿を現したその場所は、

 素晴らしく美しい虹が、そのあでやかな姿を見せてくれた

 まさにその約束の空だったのだから。




 お月様はその美しい姿を惜しげもなく見せてくれた。


 雨と雲と雷鳴と稲妻と風と星、集まった人々。


 すべてがひとつになるような、カチャーシーのあと、

 喜納昌吉は再び「すべての人の心に花を」を歌った。



 その歌声は、空にとけだし大地に染み込み、

 天と地の間に住む人々のこころに虹の種を落としていくようだった。






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 喜納昌吉&チャンプルーズの一ファンとして見たライブを、まったく個人的にレポートしてみました。


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