スタンドから眺める木漏れ日
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2021年03月10日(水) 震災・木蘭・文房具

明日は2021年3月11日。東日本大震災から丸10年を迎える。
長いとも、短いとも感じられる10年という歳月。
その節目の日を迎えるにあたり、ふと思い出したことがある。
「震災とのつながりを失くしたくない」その想いを密かに託したあるモノのことを。

2019年2月、【Magnolia -木蘭-】という名の万年筆が発売された。

発売から遡ること1年前の2018年の年明けミーティング、
それまでオリジナル商品の提案からメーカーなどへの交渉、
商品化までの一切を社長1人で行っていたが、
「これからはみんなもどんどんアイディアを出してね」
という「指令」がスタッフ全員に下された。

それ以前から似たようなことは言われていたが、
すべて「お酒」の入った席上のことだったので
「そうですね〜、考えておきま〜す」の軽い一言で片付けていた。

しかし、この年明けミーティングでは珍しく全員が素面(笑)。
「ちょっとこれは先延ばしにはできないな…」
そう思った私は、社長の指令に「ちょっとだけ」真剣に取り組んだ。

スタレビの「木蘭の涙」で万年筆を作りたいというアイデアは
このミーティングの後、あまり日を置かずに生まれたと思う。
以前、好みの万年筆インクを調合してもらうイベントに参加した時に
「次は木蘭の涙という名のインクを作ってもらおう」と考えていたので、
それが万年筆へと移行した形だ。

アイディアのきっかけが「木蘭の涙」であることに間違いはない。
でも、この楽曲を知る人だけでなく知らない人にも商品を販売するには
木蘭という花そのものをテーマに据えた方がいい。
ここから、私の頭の中は四六時中モクレンのことでいっぱいとなった。

モクレンは、蘭の花に似ていると言われたことから「木蘭」と表記され、
「モクラン」という読みがモクレンの語源になったと言われている。
やがて「いやいや、蘭より蓮の方が似てんじゃね?」と言い出した人がいて
モクレンの表記は「木蓮」が一般的になったとされている。

また、学名の「Magnolia liliiflora」には「百合の花のような」という意味がある。
「オー、コノハナハマルデユリノハナノヨウデスネェー」
という異国の学者さんがいたのかどうかは定かではないが、
とにかくモクレンというのはさまざまな植物に例えられる花である。

なぜ、これほど呼び名が多いのか。
それは、時代や国境を超えて人々が自分の身近にある花にその姿を例えて
親しまれてきた証なのではないかと考えるようになった。
気高く咲きながらも、親しみを持って愛される花、モクレン。
その印象は、高級筆記具とされる万年筆そのものとも重っていく。

これでいこう、と自分史上生まれて初めての「商品提案書」を作って
社長に提出したのは翌月のスタッフミーティング当日だった。
その時点でほぼほぼOKが出るような形ではあったのだか、
実際には具体的なテーマなどかなり追い込まれることになったのだが
まぁそれは置いといて。

この提案書を作った時点では、発売時期をモクレンの花咲く3月ごろと想定していた。
そこで思ったのが、東日本大震災との関わりだった。

「被災地の子供たちに文具を送るプロジェクト」。
お客様などから寄せられた未使用の文房具を被災地である宮城県亘理郡亘理町
荒浜の子どもたちに宛てて送る活動を2011年の震災直後から続けていた。
これによって、わずかながらも震災復興とのつながりを保っていたが、
当時被災した子どもたちも大きくなり、文房具をはじめとする物流も
元通りになったことから一定の役割を果たしたとして2017年の活動が最後となった。

モクレンは震災の起こった3月から4月にかけて咲く花である。
何とか、震災との新たなつながりをこの万年筆で築くことはできないだろうか。
当初は寄付金付きにすることや3.11に関連づけた価格設定も挙がったが、
実現には至らなかった。

「木蘭の涙」と震災への深い想いを込めた万年筆【Magnolia 木蘭】は
提案から1年の歳月を経て2019年2月に無事発売された。
このとき、自身が担当する店頭配布用の手書き通信には
ここぞとばかりにスタレビとの関わりについて記している。

《日本を代表するライブバンド、スターダスト⭐レビューの「木蘭の涙」という楽曲をご存知でしょうか。1993年にリリースされたこの曲は、現在も多くのアーティストによってカバーされております。実はこの「木蘭の涙」がきっかけとなって【Magnolia 木蘭】は誕生いたしました。発売から30年近くが経過してもなお、多くの人から愛され続けるこの名曲のように、お客様から末永く愛される万年筆であってほしいという願いを込めて、「木蘭」の名をあえて冠しました》

そう、この万年筆において私が唯一こだわったのはこの「木蘭」の表記だ。
語源とされる「木蘭」と表記することによって、この花が歩んだ長い長い歴史を
この万年筆から感じ取ってほしいという想いももちろんあったのだが
「木蘭の涙」を知ってる人ならこの表記に「あっ」と思ってくれるんじゃないかなぁ、
という「素敵なたくらみ」の意味合いの方が強かった。

ありがたいことに、この万年筆は発売から約3週間でほぼ完売状態となった。
現在でも、ご愛用のお客様からSNSに写真をアップしていただいていることがある。

「愛されてるねぇ、木蘭」
ライブで「木蘭の涙」を聴くたびに抱くのと
同じ想いが自然と湧いてきていることに気づく。

もしかしたら、「うちの木蘭」もスタレビを介してではあるけれど
震災とのつながりを絶やすことなく持ち続けられているのかな。
そんなありがたい気づきを、今日感じている。


Shiratama Akkey |MAILHomePage

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