ジョージ北峰の日記
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2015年07月24日(金) |
悪性新生物ーーこの化け物の正体をあばく |
癌の第二法則を導き出してみよう。
この研究には、m細胞から1個の細胞を取り出し実験に使う(1個の細胞を増殖させ、得られた細胞をクローン細胞株と呼ぶ)。細胞変異の研究にはクローン株を使うことが必須である。 これまでm細胞から0.15%または0.3%の寒天培地で培養することで、低悪性度m15ag細胞(II期)と中悪性度のmag細胞(III期)が得られることを示した。 濃度の異なる寒天培地を使って得られたm15agやmagは、1%寒天培地での増殖性やハツカネズミへの戻し移植で、それぞれ固有の悪性性質を示す(m15agは免疫力の弱い新生児ハツヵネズミにのみに腫瘍形成を示すが、magは新生児のみならず、成熟ハツカネズミに腫瘍形成を示す)。
m15agもmagも、それぞれ1個の細胞から得られたクローン株に由来するので、いずれの細胞も培養条件を変えることによって、悪性度の異なる(II期又はIII期)細胞へ変化(または変異)したと考えられる。
話を簡単にするため単層培養されているm細胞(寒天を含まない通常の培養液で細胞を増殖させると、細胞は培養ビンの壁に壁着・進展し増殖する)から0.3%の寒天培地で増殖出来るmag細胞を分離し(培養器の底に高濃度(0.6%)の寒天培地を敷き、その上に細胞を含む0.3%寒天培地を重層して培養する。 すると細胞は寒天培地上では壁着・進展出来ず、寒天培地内で3次元の構造、ブドウの房状の塊を形成して増殖する。これらの細胞集塊をコロニーと呼ぶ)実験に使う。
単層培養されているm細胞も0.3%の寒天培地で全く増殖出来ないわけではなく、およそ二割程度の細胞が小さなコロニーを形成して増殖する。mag株の樹立にはこの小さなコロニーを収集して再度0.3%の培地で培養する。 この操作を70回ほど繰り返すうちに(凡そ140日で)八割の細胞が大型のコロニーを形成するようになる(こうして得られた細胞をmagと呼ぶ)。
このmag細胞は、m細胞と性質が著しく違っていて、成熟ハツカネズミへ戻し移植すると40%から50%の頻度で腫瘍形成が見られ、かつ1%寒天培養で18%の細胞が増殖を示す。又サイズに関して、m細胞は1%の寒天培地で直径90μの、一方magは270μのコロニー(m細胞の3倍)を形成する。ちなみに転移能を有すF細胞やMC細胞は其々1082μ、1005μのコロニー(m細胞の10倍)を形成する)
しかしその後、mag細胞を同じ条件でいくら継代培養しても、コロニー形成能がそれ以上上昇することはない。 これは予想外の結果で、0.3%の培養環境で継代維持すれば、いずれは100%近くの細胞がコロニー形成(率)を示すようになると考えていた。
この結果は一体何を意味するのだろうか?
数理モデル使って考えてみると理解しやすい。 一つの細胞集団内でコロニー形成出来ない細胞を[A]、コロニー出来る細胞を[B]で表すと、例えばmag細胞は0.3%の寒天培養で、性質の異なる細胞([B]から[A]、かつ[A]から[B])が絶えず出現しているとと考えなければならないのだ。
なぜなら、数理モデルでは、[A] から[B]が一方的に出現するだけなら(事象M1とする)、[B]の出現頻度が低ければ継代培養(培養瓶から一部の細胞を採取し新しい瓶に移す作業)する過程で、 [B]の存在比率は等比級数的に減少するので つまり[B]は早晩培養瓶から消失してしまうと考えられる。
その逆もまた真で、[B] から[A]が一方的に出現するだけ場合(事象M2とする)、その出現頻度が低ければ、やがて[A]は消失してしまう。 つまり、単層培養でも寒天培養でも、[A]と[B]が絶えず混在しているということは [A]⇋[B]
がそれぞれ一定の頻度で絶えず起こっていると考えざるを得ないのだ。
ただ単層培養と0.3%寒天培養では [A]→[B](事象M1)の出現頻度と[A]←[B](事象M2)の出現頻度が違っていると考えられる。
つまり細胞集団内で[A]の出現率をpとすると[B]の出現率は1-p(事象M1),
逆に[B]から[A]の出現頻度をqとすると[B]の出現頻度は1-q ( 事象M2)
[A]⇀[B](p ,1-p)( M1 )、 [A] ↽B] ( 1-q, q ) ( M2 ) の両事象が絶えず生起していると考えられるだろう。
とすれば単層培養と 0.3%寒天培養ではM1とM2の、( p, q)の値が それぞれ違っていて、 不等式で表せば単層培養ではM1 > M2で、 一方0.3%培養では、M1 < M2と 表記できるだろう。
つまりm細胞は0.3%の寒天培養で継代することでコロニー形成細胞の出現 頻度は確率過程[I](M1>M2)から確率過程[II](M1<M2)へ変化した のである。
ここで注意したいのは、細胞が[A]から[B]を生成する事象(M1)と、[A]から[B]を生成する事象(M2)はそれぞれ独立していることである。
つまりm細胞もmag細胞も事象(M1)と事象(M2)が互いに独立に生起している 細胞から構成されていると考えられる。
それでは実際に、事象「M1」のpと事象「M2」のqを求めることが出来るだ ろうか?
一つの細胞集団内で事象M1と事象M2が絶えず独立に起こっている確率過程 [A]⇀[B](p 1-p) [A] ↽B] ( 1-q q ) はマルコフ過程と考えられて、
そうだとすれば、この頻度を実際に求めることが可能である。 しかしこの計算は少し面倒なので省略する。 結果だけを示すと
m15agは [A]⇀[B] が 3.0 /100 、一方 [A]↽[B]が 2.3 /100 mag では [A]⇀[B] が 1.7 /100 、一方 [A]↽[B] 3.0/ 1000
この数値の読み方は、少し面倒なので簡単に説明すると、m15agではコロニーを形成する細胞の出現傾向がやや高く、magではコロニーを形成する細胞の出現傾向が圧倒的に高い(10倍以上)。この値は細胞100個当たりまたは1000個 当たりの頻度で生起し、DNAに生起する突然変異が10万個から100万個の次元であることから考える圧倒的に高い値であることが分かる。
そこで癌の第二法則は
「癌細胞集団で [A]⇋[B]は一定の確率(移行)(DNAの突然変異とは別の次元)で生起しおり この値は環境変化応じて変化するが、最終的には一定の値に収束する」 と要約出来るだろう。
この法則が、なぜ悪性細胞が示す重要な性質を表すと言えるのだろうか?
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