ジョージ北峰の日記
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2009年08月07日(金) |
オーロラの伝説ー続き |
XXIX 世界は少しずつ、平静さを取り戻していました。 日本では、梅雨時を迎えて連日雨が降り続いていました。私は放射能で汚染された雨が降りはしないかと恐れていました。長期的に見れば世界のどの部位が特に汚染が強いのかについて情報を得ることが、遺伝子を扱う者には特に重要なのです。 世界中で、核爆発後の悲惨な状態が報道されていましたが、とりわけショックだったのは、秘境といわれる密林の破壊や動植物の被害、さらに何の罪もない渡り鳥や、回遊する汚染魚などがニュースとして報道された時でした。場合によっては彼らを地球規模で処分する必要があるとさえ議論され始めたのです。 「人間の無謀な行為で、彼等も生死の瀬戸際へ追いやられるのに、さらに処分を考えるのか?」 私は人間の身勝手さにやり場のない怒りを覚えるのでした。
しかし日本では、まだ放射能雨は観察されていないと報道されていましたが、何時まで安全なのかについては予測出来ない状況でした。 国全体は大揺れに揺れていました。単に食料を含む物資の買占めや、昔の戦争中のように都会から田舎への疎開だけにとどまらず世界の指導層に対する批判が新聞・テレビを賑わしていました。 当然、早急に当事国の停戦を望む声が日増しに大きくなり始めていました。 しかし戦争は終結していませんでした。
世界が直面した危機的な問題は、この戦争が、国と国との戦いではないことでした。一つの宗教又はイデオロギーで結ばれた集団が国境を越えて世界中に広がっていたのです。世界経済のグローバル化に伴って生じた不均衡な富の分配が国家間、人種間あるいは人々の間に大きな問題を投げかけていました。彼等はその歪の中から世界的規模で生まれていたのです。 日本も、その流れに巻き込まれつつありました。国民全体が経済的に総中流と言われた時代が去り、富の分配に不平等が広がり、所謂格差問題が取沙汰され始めていたのです。しかし日本のような先進国における格差問題は、国家間や民族間の格差問題に較べれば、まだ小さな問題でした。
国家間、民族間に生じた不均衡な富の流れ、つまり格差問題は核エネルギーのように巨大エネルギーに変わりつつあったのです。 しかし私達は、どれほど格差の解消に力を注いできたでしょうか。国連も、極論すれば先進国の利害の調整機関としての役割しか果たしていなかったのです。 世界中で同時進行する格差問題の是正こそ真剣に取り組むべき国連の最優先課題だったのに---。 国と国、民族と民族の間に生じた富の不均衡が、世界体制を極めて不安定な状態にし、しかもその反発エネルギーは、半端ではありませんでした。
今回の戦争は、こうした背景があっての暴発だったのです。 しかも反発者はテロリストと呼ばれていましたが、彼等にも多くの人々から支持される大義がありました。無論先進国側にも大義はありましたが、むしろそれは危ういと言ったほうが正しかったかも知れません。先進国の人々も、何かしら一抹の後ろめたさ感じていたのです。 「自分達だけが豊かさを謳歌していてよいのか?今の先進国は、昔の王や貴族達と同じではないのか?知らぬ間に特権階級になっているのではないか?民主主義といってもギリシャの都市国家と同じではないのか? 一握りの有能な人間が有能であるという理由だけで際限なく豊かになってよいのか?」 言葉に出さなくても、人々には絶えずそんな疑問があったのです。 今回は(私に言わせれば)地球の生命(いのち)の命運を掛けた戦争になろうとしていました。
私は、核爆発による生物への被害を最小限にするべく、有用な遺伝子を可能な限り急いで保存しようと必死になっていました。遺伝子さえ保存すれば、地球が破壊された後も何時か再び彼等が生命体として甦ることが期待されるのです。
雨にぬれる木々の緑は鮮やかで、人間社会の混乱を他所にして、垂れ込める雲を飲み込まんばかりに厚く茂っていました。降り続く雨に小川の水量が増していました。川辺に咲く赤い草花に白い蝶が疲れたように休んでいました。時々稲妻が光り、雷鳴がとどろいていました。連日の作業で、私も仲間も疲れきっていました。
その日は、雷雨が強く仕事にならないと、皆家に戻った時です。 と、又大変なニュースが舞い込んでいました!
宇宙空間で何か大きな爆発があった。詳細は不明だが、核爆発の可能性があり“外出を控えるように”と繰り返し報道されていたのです。私は直ちに注意を喚起すべく人々に連絡を取り合うよう指示しました。 が、島では漁に出た船との連絡が取れないと言うことでした。 母が驚き慌てていました。妹が父と漁船に乗り組んでいたらしいのです。体調を崩した母に代わって妹が出かけたというのでした。 しかし私は母に「冷静に!」と言う以外何も出来ませんでした。
一方テレビで世界の危機状態についてニュースが刻々と入っていました。 難民を受け入れたZ国に対して、攻撃した国があったらしいのです。 私は一瞬「パトラは大丈夫か?」不安がよぎりました。 「神様、助けてください---!」 私は我を忘れ、天を仰ぎ叫んでいました。 これまで一度だって祈ったこともない神に助けを求めていました。
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