ジョージ北峰の日記
DiaryINDEX|past|will
満天下で星が散りばめたように輝いている様を見て「星が降る」などと大袈裟に表現することがありますが、当時私が見た「動く星空」は、そんな次元の話ではありませんでした。東西南北に広がる空の星が本当に中央の一点に向かって動き始めたのです。それは流れ星の様な速い動きではなく、ゆっくりとした運動で、頭上に星が天の川の様に集まり始めたのです。そしてそれは、地上に向かってカーテンの様に下りて来るのです。そして下がるにつれて太い筒の様な構造を形成し始めたのです。 それも2人の女王が命を懸けて戦っている最中(さなか)に!宇宙では壮大なドラマが始まろうとしていたのでした。 星の動きは例えれば水中で強い渦巻きが起こり水の表面の青い花びらが次々と渦巻きの中へ飲み込まれていくような様(さま)でもありました。しかしそれは又、遥か彼方の空で起こり始めた現象でありましたが、新しい生命(いのち)の形態発生の様子を見ているようでもありました。 その壮大な自然界のドラマを言葉で表現することが殆ど不可能なほど荘厳、感動的で「これこそ本当に宇宙の創世記を、今私が体験しているのではないのか?」とわが目を疑ったほどでした。 一方海上では蛍の様な青白い光を放つUFOが蜃気楼の様に朦朧と揺れる様はこの世の眺めとは思えませんでした。怪奇小説によく描かれる死霊の世界を見ているようでもありした。 一方陸上ではラムダ国の戦士達の発する赤い光が山手の方からあわただしく海岸線へ移動する有様は、夏の夜の風物詩「京の大文字焼き」のように見え、私にはとても懐かしく印象的で旅愁の思いにふと目頭が熱くなったほどでした。
しかし海岸では、二人の厳しい戦いは続いていました。 強い陸風が絶え間なく吹き、あたりの木々が激しく揺れる。そして砂浜では打ち寄せる波と風が互いに逆らい、衝突しあい、白い水飛沫(みずしぶき)を吹き上げていました。その様子は、まさに二人の激しい戦いを象徴しているように見えました。 パトラは先程から砂浜に倒れたまま、全く動こうともしません。 「倒されたのか?」私が心配そうにベンの方へ振り向くと、彼は何も言わずに頷くだけ、全く動こうとしませんでした。 「何故だろう?」と訝って(いぶかって)注視していると、相手の女王は焦(じ)れたのか先に動き始めた。 その瞬間私は「そうか!」と思い出したことがありました。それは「相手の動きを誘って---パトラは勝つ瞬間を待っていたのだ」という確信でした。 そして相手の女王が振り上げた剣で「袈裟切り」で止めを刺そうとした瞬間でした。 倒れたはずのパトラの剣が一閃、2本の剣から、火の玉のような火花が飛び散りました。と、動きかけた相手の女王は、その体勢のままもんどりうって倒れました。 そして--彼女の手から剣が宙に舞い海中へスローモーションの映画を見ているようにゆっくり落ちて行きました。しばらく静寂が続きました。そしてパトラが立ち上がるのが見えました。 「勝った!あれがツバメ返し!」私の目から、突然涙が溢れてきました。パトラは「ツバメ返し」を勝利が確信できる瞬間まで使っていなかったのです。 私は何故か涙が止まりませんでした。 しかし、それはパトラが勝ったからと言う、単純な喜びからだけではなかったかもしれません。 命をかけ、国の名誉をかけ正々堂々とわたり合った二人の女王に対する尊敬と敬意の涙だったかもしれません。 一方ベンは私の方に振り向きざま、満面の笑顔で腕を空に突き上げると、何か大声で叫びました。そのすざましい喜びは、私はかって一度も経験したことがありませんでした。するとラムダ国の戦士たちも呼応して一斉に腕を空に向かって突き上げ嵐のような喜びの声を発し、その声は島全体にこだまするかの様な勢いでした。 私はラムダ国の住人でありましたから、パトラの勝利が嬉しかったのは勿論ですが、しかしその時はそれ以上にラムダ国とオメガ国の命を賭けた戦いのあり方、そしてその運命を背負って戦った女王達の戦い方に感動していたのではないかと思います。
ラムダ国の人々がパトラを女王として尊敬する気持ちが私には、やっと理解出来たように思いました。
|