ジョージ北峰の日記
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2008年03月14日(金) オーロラの伝説ー続き

 自分の生命は自分で守る、さらに厳格に仕事の分業体制を守るというこの国のあり方に、私は頭の上では理解しているつもりであっても、現実にコジロウの死(私を助けようとしてくれた)を目の当たりにして、自分が助けることも出来ない状況が、それが男として卑怯で、とても許されない気がした。常識的な判断として「このようなことが人間として許されるのだろうか?」と強い疑問が残った。
 
 一方、この国でも戦争が終結し、なお生き残った戦士で、自力で助かろうとすれば助かる医療システムは完備されていた。ただどのような傷を負ったとしても、戦士である限り戦争があればいつでも戦うことが義務付けられていた。自力で立ち上がることが出来ない戦士に手を貸すことは誰もなかった。戦士達もそのことは充分分かっているようだった。

 ベンがパトラの決闘場へ急ぐよう皆に指示を出したが、コジロウの死に直面して、私の心は動揺していた。「もし、パトラが傷つき倒れた場合、誰も助けないのだろうか? もし彼女が死ぬようなことがあれば、私は?何もしないでいることができるだろうか?」
 私は戦場で一緒に戦っているほうが余程精神的に楽なような気がした。サスケはと見るとやはり何事もなかったように大型のカラスと一緒に皆の前方を進んで行く。今や眼前に私の理解を超える状況が展開しようとしていた。

 それにしてもこれから始まる予断出来ない女王同士の戦いを手も出さずに観客として、ただじっと眺めていることは映画や芝居なら兎も角、現実は期待よりも恐怖心を伴うことが大きく、普通なら男として又人間として、我慢できるようには思えなかった。
「サッカーの様なスポーツの国際試合でさえ、観客が暴動を起こすことがあったのだから」

 決闘場が近づくにつれ私の心臓は早鐘のように高鳴り始めた。握り締めた手から緊張のためじっとり汗ばんでくる。「やはり、老博士が言っていたように戦場に来ないほうがよかったのでは?」と後悔する気持ちが大きくなっていた。

 決闘場は海辺に設けられていた。それは単なる運動場の様な平坦な場所ではなかった。大きな不整形の岩、周囲には熱帯特有の、つる植物が絡みつく背の高い木々が聳えている。一方白い砂浜に不気味に黒い波が打ち寄せていた。
 海側にはオメガ国の戦士が集結する夥しい数のUFOがまるで幽霊の様に漂っている。陸地側にはラムダ国の戦士が雑然と集結、双方が海側と陸地側に分かれて対峙していた。
 オメガ国戦士の鎧が放つ青い光がUFO揺れるたびに蛍の様に上下に移動する。一方、陸地側ではラムダ国戦死の放つ赤い光がまるで灯篭流しの様に蠢く様が、ふと平家物語の壇ノ浦の決戦を想起させた。それはパトラの無事を祈る私の心を一層掻き乱すことになった。

 しかし一方暗黒の空には悠久の宇宙を暗示するかのように、凍りつく星が相も変わらずきらきら輝き続けていた。
風は陸から海の方向へ絶えず吹き、波の音と木々のざわめく音が渾然一体となって嵐の決闘を予感させた。
ベンは私を軍中枢部が控える本部へ案内してくれた。ただの木材を組み合わせた簡単な本部だがベンのほかにも陸戦、海戦の指揮官たちが集まっていた。少し離れた所では情報員達がラムダ国の本部と絶えず交信している。
 
 私達が本部へ到着して間もなく、いよいよ2機のUFOが海辺に着陸、それぞれ鎧・兜で身をかためた二人の王女が海岸に降り立った。二人とも鎧・兜以外は短い短剣を一人は背に、一人は腰につけている他に武器は何も身に着けていなかった。
「剣の戦い!それならパトラに勝つチャンスがある!」私は少しほっとした。彼女に秘剣技“ツバメ返しを”教えていたからだ。
 兜・鎧の光る色でどちらがパトラか判断できるが、姿、体の形は二人共ほとんど同じで区別がつかない。
 私が大変驚いたのは、双眼鏡を覗いた時だった。体ばかりでなく、なんと二人はクローン人間のように顔までそっくりだった!!
 老博士が言っていたように次の世代のパトラが準備されていたのだ!----ということはこれまで私が尊敬し愛してきたパトラが今回は倒されるのだろうか??またも不安がよぎった。
 しかしその場合私と一緒に地球に戻って新しい国を作る博士の計画は頓挫するのだろうか??
 本当のところ、生物さえ設計・作製してしまう博士の考えていることは、私の想像力では理解不能だった。決闘場では周囲の将軍達は意外に冷静にしていた。

  と、遠くのほうからほら貝(?)を吹く音が聞こえてきた。

と! 同時に二人はまるで忍者の様に飛び離れると、パトラは海岸の砂浜側に、相手は陸地の岩の上に陣取った。二人の間はずいぶん離れているようだが、彼らの動きからは充分に戦える間合いだ。私の見る限り二人は一瞬の動きで相手を倒せる範囲内に位置している。
 二人の兜の下から覗く髪が風に僅かに揺れるのが見えた。
それは、これから始まろうとする死闘がとても想像出来ない程、静かで幻想的なシルエットだった。 
 しかし一方、二人の高鳴る鼓動を暗示するように、鎧の発する赤、青の光の点滅が不気味に揺れる。
 その響きが大きな音となってあたかも私の胸元に届いてくるようで、恐ろしくて、やりきれない光景だった。


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