ジョージ北峰の日記
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2006年07月30日(日) オーロラの伝説ー続き

XII
 この国は地下都市だが、山の一角を利用した部分は、一見地上に聳え立つビルのようで、山の斜面には太陽光を取り入れる採光窓、外部が一望できる会議室、それにライブラリーやバーまでもが設けられていた。勿論、外から、そのような地下建築物が存在すことは分からなかった。
 戦争が激しさを増してからは、軍部、指導部、科学技術部とそれに関連する各部署から代表が招集され、戦争状況の分析と対応策について連日話し合いが展望会議室で持たれていた。私が戦争の状況を初めて視察したその夜、私にも参加するよう要請を受けた。
 展望会議室からは夜空、海、海岸線が一望できた。
 音も無く不気味にざわめく黒い椰子の木々、ほの白い月明かりに反射する海岸線、それにアメーバの捕食膜の蠢き(うごめき)のように、何物をも容易に飲み込みそうに打ち寄せる、黒い波(私には、海岸で敵戦士に襲撃されたことや、今日の激しい戦争で死んでいった戦士達の事が思い出され)、その波間から幽霊でも出てきそうな錯覚を憶え、一瞬身震いした。しかし一方、煌々と白く輝く三日月や、宝石のように輝く星は、現実とは違って、連綿と存在し続ける“シンボル”いや“神”の存在を暗示しているようで、私の心に何故か故郷への強いノスタルジアを呼び起こした。パトラがいなければ、私はすぐにでもこの国から逃げ出したい衝動に駆られた程だった。しかし会議では白熱した議論が展開していた。
 席上、戦況についての危機的困難が議論されていた。とりわけ相手国が開発した新兵器“モンスターザメ”について議論が集中していた。
 アレクは彼らと戦った感触から、ラムダ国が開発したシャチ部隊で何とか対応できるとと答えたが、しかし相手の数が問題だとの認識を示した。「わが国のシャチ部隊はまだ実験段階で、少数部隊だ、こちらの対応能力を超える程の数の“モンスターザメ”を相手国が投入してくれば、我々としては防ぎきれず相手の陸上部隊の侵入を許すことになるだろう」するとパトラが引き継いで「現在この問題については、既にスパイ活動が展開されている、近いうちに正確な情報が入手できると思う、しかし陸戦部隊の準備を早急に整えておかなくては、手遅れになるかも知れない」とベンの方へ向かって言った。ベンは胸を張って「分かりました、モンスターザメから上陸してくる敵戦士は疲れていない可能性もあるので手強いと考えた方が良いでしょう」と冷静な口調で答えた。
 すると、白髪の老人だが、鷲のように鋭い目付きが印象的な参謀長が「しかしいずれにしても科学技術部が“モンスターザメに対抗しうる兵器を開発することが急がれる」と思慮深い面持ちで、静かにしかし強い口調で述べた。「この件に関しては、当面はシャチ部隊の数の増加と訓練の強化が必要だ」が、さらに私の分離した遺伝子を使った大型生物兵器の実用化も急がれるとパトラは私のほうに目を向けた。
 「動物を使った遺伝子組み換え実験は、機械の組み立てのように計画的に進められる作業ではない。生物が相手である以上、ある程度の時間的余裕が必要、受精だけでも大変だが、受精したとしても目的の遺伝子組み換え生物
を発育、成長させるには時間を要する。良い結果を得るまでには数年、数十年がかかると考えるのが常識だろう」私は、この研究の難しさ、さらにこのような研究に盲目的に手を染めることへの罪深さなどに疑問を感じ始めたこともあって暗澹たる気分で答えたが、発生学を担当している科学者は「その点については心配しなくて良い。あなたが遺伝子組み換え細胞さえ準備してくれれば、あとの作業は私達が担当する」とてきぱきと答えた。
 後日、この国の動物改造システムを知ることになったが、それは私にとっては“生物学の原理”を全く無視した「とんでもないシステム!」と、言葉では表現できない驚きと、ある意味では感嘆に近い衝撃を受けた。このシステムについてはいずれ、詳しくお話するつもりである。


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