ジョージ北峰の日記
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細い華奢な茎に 可愛い、子供の手のような葉 薄曇りに、小雨降る朝 青い小さな花の蕾が一つ 小庭の花壇に隠れて誕生した。
昼には、美しい大型の花の下で 可憐な花がひっそり咲いた。 しばらくして、濃紫(こむらさき)のしじみ蝶が飛んできて、 他の花には目もくれないで、その小さな花にとまった。 手入れの行き届いた美しい花が咲き乱れる中で、 蝶がどうしてその花を選ぶのか不思議だった。 ユリのようだが小さく貧相に見えたからだ。 しかし蝶は親しそうに飽きることなく、 飛んだり離れたり小さい花と戯れ始めた。 か細い茎をいたわるように。 よくその花を観察すれば 青空のように澄んだ深青色の花弁、黄色い花粉、 清く美しい・・・花だった。 この花が、バラのように大きかったなら、きっと世に知られた花に なっていたに違いなかった。 しかし、それには残念ながら小さすぎた。 翌日も蝶は飛んできた。 花は蝶をジェニーと呼んだ。
ジェニー あなたは凛々しく、なんて優しい蝶? 周りには、あんなに美しい花がいっぱい咲いているのに? 次の日も、ジェニーは飛んできた。風が吹くと さっと離れ、そしてまた優しくとまる、 何かが近づくと何処ともなく飛び去る。 しばらくすると又、帰ってくる。
私の愛しい、ジェニー 今にも死にそうだった私に 勇気と希望を与えてくれたジェニー よそよそしく、冷たいジェニー でも本当は心優しいジェニー
ある日不覚にも ジェニーは蜘蛛の巣にかかった。 数日後には、糸にくるまれ死んでいた。
その日からジェニーが帰ってくることはなかった。 花は夜露にたれた。
何処へ行ったのジェニー? 帰って、そして柔らかい羽で、あの優しい歌を聞かせて。 蜜でも花粉でも何でもあげる。 花は心を込めて祈った。 しかし・・・返事はなかった。
秋深く、人は草花の枯れ果てた姿を見た。 そして、その枯れ果てた茎に、小さな生命が 宿っているのも。
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