与太郎文庫
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2003年05月21日(水) |
津山事件 〜 30+1人 〜 |
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20030521 銃声を鳴らすと、この両隣家の家族はすぐに眼をさます。睦雄が祖母 のつぎの、山岸エツ母子に日本刀を揮ったのはこういうわけがあった。 (P63) 父は二才のときに死亡し、母は翌年に死んでいる。肺結核であった。 (P16) あとで考えると、都井睦雄の家には一種の因縁があった。──(略) この家には六十年前に時本常三郎という男が住んでいた。彼は同村の 藤村牧雄の妻と関係していたが、その現場を夫の牧雄に発見されて怒鳴 られた。常三郎はそれに腹を立て、いったん自宅に引き返して日本刀を 持ち出し、牧雄方に乗りこんで、その妻を殺し無理心中を図ろうとした が、女を斬ることが出来なかった。そこで夫の牧雄に斬りつけた上、常 三郎は切腹自殺したのである。当時常三郎は二十二才であったといわれ ている。 この事件は明治十一年(1878)に起ったことだが、その性的習俗はも っと濃厚であったと思われる。その刃傷沙汰といい、睦雄の凶行とどこ か似通っている。(P44-45) こうして呪われた夜は次第に更けて行った。あたかも陰暦四月二十一 日、月はあったが曇りがちのうすら寒い晩であった。(P58-59) (*陰暦0421は陽暦0520、犯行前夜の日付を指す)
しかし、裁判医の佐野甚七は、次のような意味を述べている。 ―― 主観的にみても、この犯行が必ずしも精神病者的犯行とは考えら れない。彼は明らかに変質者であったのだ。さらに肝要な素材は気象で ある。すなわち、とかく晩春から初夏にかけてこういう変質的素質の持 主には精神的症状が著しく現れるものである。私の長い経験からすれば、 一年のうち殺伐な事件が多く起るのは十二月と一月及び五、六、七月の この二つの波がある。そして冬季には経済的色彩を帯びたもの、また夏 季には性的昂奮、したがって色情的なもの及び精神的変調による事件が 多い。―― (P105)
―― 松本 清張《ミステリーの系譜 19750210 中公文庫》 ―――――――――――――――――――――――――――――――― ―― 《ミステリーの系譜 〜 闇に駆ける猟銃 〜 196708・・-196804・・ 週刊読売》 仮名は下記《無限回廊・津山30人殺し事件》による。 ―― この事件を報じた当時の《合同新聞 19380522》では「都井睦夫」。 ―― http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/tuyama.htm
■墓碑銘
時本 常三郎 殺人犯 1856 1878・・・・ 22 切腹自殺 ――――――――――――――――――― *(仮名/年齢異説) ♀都井 イセ 睦雄の祖母 19380521 80 斬首 都井 よね (76) ♀山岸 エツ 寡婦 19380521 45 斬首 岸本 つきよ(50) 山岸 エツの二男 19380521 14 斬首 岸本 吉男 山岸 エツの三男 19380521 11 斬首 岸本 守 ♀西田 ミネ=山岸 チカ子の姉 19380521 43 銃殺 西田 とめ 西田 修造 農業 19380521 ? 銃殺 西田 秀司 (50) ♀□□ ヨシ子=西田 ミネの娘 19380521 22 銃殺 大友 良子 山岸 チカ子=西田 ミネの妹 19380521 22 銃殺 岡部 千鶴子(19) 山岸 隆太郎 農業 19380521 ? 銃殺 岸本 高司 (22) ♀山岸 スマエ 隆太郎の内妻 19380521 ? 銃殺 西田 智恵 (20)#05の次女 山岸 明男 隆太郎の甥 19380521 18 銃殺 寺中 猛雄 時本 大二郎 農業 19380521 60 斬殺 寺川 政一 *射殺 時本 大二郎の長男 19380521 19 銃殺 寺川 貞一 0515結婚 ♀時本 大二郎の五女 19380521 15 銃殺 寺川 とき ♀時本 大二郎の六女 19380521 12 銃殺 寺川 はな ♀時本 大二郎の長男の内妻 19380521 22 銃殺 野木 節子 0515結婚 時本 茂治の父 19380521 86 銃殺 寺川 孝四郎 ♀時本 ツルヨ 寡婦 19380521 45 銃殺 寺川 トヨ (46) 時本 ツルヨの長男 19380521 21 銃殺 寺川 好二 ♀丹波 セツ ツネの娘 19380521 21 銃殺 丹下 つる代 ♀山岸 マサ 19380521 19 銃殺 岸本 みさ ♀時本 万平の息子=浅男の妻 19380521 65 銃殺 平地 トラ ♀丹波 ツネ セツの母・後家 19380521 47 銃殺 丹下 イト ♀梅木 ミヤ子 一郎の妻 19380521 34 銃殺 池山 宮 梅木 □ ミヤ子&一郎の四男 19380521 05 銃殺 池山 昭男 ♀梅木 ツル 一郎の母 19380521 71 銃殺 池山 ツル (72) 梅木 咲市 一郎の父 19380521 74 銃殺 池山 勝市 ♀時本 アキ子 福太郎の妻 19380521 ? 銃殺 寺川 はま (56) 田岡 追太郎 ユキ子の夫 19380521 51 銃殺 岡部 和夫 ♀田岡 ユキ子 追太郎の妻 19380521 30 銃殺 岡部 みよ (32) 都井 睦雄 殺人犯 19170305 19380521 21 猟銃自殺(22)
■最期の遺書
<<いよいよ死するにあたり一筆書置申します、決行するにはしたが、 うつべきをうたず、うたいでもよいものをうった、時のはずみで、ああ 祖母にはすみませぬ、まことにすまぬ、二才の時からの育ての祖母、祖 母は殺してはいけないのだけれど後に残る不びんを考えてついああした 事を行なった、楽に死ねる様にと思ったらあまりみじめなことをした、 まことにすみません涙涙ただすまぬ涙が出るばかり、姉さんにも すまぬ、はなはだすみませんゆるして下さい、つまらぬ弟でした、この 様なことをしたから(たとい自分のうらみからとは云いながら)決して はかをして下されなくてもよろしい、野にくされれば本望である、病気 四年間の社会の冷胆、圧迫にはまことに泣いた、親族が少く愛と云うも のの僕の身にとって少いにも泣いた、社会もすこしみよりのないもの結 核患者に同情すべきだ、実際弱いのにはこりた、今度は強い強い人に生 れてこよう、実際僕も不幸な人生だった、今度は幸福に生れてこよう。 思う様にはゆかなかった、今日決行を思いついたのは、僕と以前関係 のあった西田ヨシ子が貝尾に来たから、また時本フユも来たからである、 しかし時本フユは逃した、また時本福太郎と云う奴、実際あれを生かし たのは情ない、ああいうものは此の世からほうむるべきだ、あいつは金 があるからといって未亡人でたつものばかりをねらって貝尾でも彼とか んけいせぬと云う者はほとんどいない、梅木一郎も密猟ばかり、土地で も人気が悪い、彼等の如きも此の世からほうむるべきだ、もはや夜明も 近づいた、死にましょう>> (P100) ―― 松本 清張《ミステリーの系譜 19750210 中公文庫》
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