与太郎文庫
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2003年04月02日(水)  おぢいさんの古楽譜(続)

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20030402
 
 チック・タック余談 〜 与太郎のデート 〜

 1964年、はじめて白塗りのコロナ・デラックスが登場した。
 新型車には、セパレーツ・シートと称するオプションがあり、レバー
を操作すると、運転席と助手席を(別々に)後向きに倒すことができた。
持たざる者にとって、許しがたい空想をかきたてられる仕様であるが、
わがもの顔の与太郎も、これで京都市内を乗りまわしていたのである。

 河原町通り丸太町上る東側に、大正13(1924)年に建設されたという
欧風料理の東洋亭があり、その南隣にチックタック時計店があった。
 車上の与太郎は、時計店から出てきた女性の姿に見おぼえがあったが、
すぐに助手席に誘いこむ勇気はなく、彼女が電車を待つのを確認して、
その場を走り去った。
 与太郎の取引先に勤めている彼女とは、顔見知りであっても個人的に
話す機会がなかったのである。最近はともかく、たやすく良家の子女が
自家用車に乗らないのは、なにより「縁談に差しつかえる」からである。

 その日の夜、与太郎は決心して、彼女の自宅に電話をかけた。
 これにも注釈を要するが、当時の電話帳は、すべての所有者の姓名と
所番地が掲載されていたのである。ただし不都合なことには、しばしば
所有者自身、すなわち父親が受話器を取る確率が高いことだった。
「あー、モシモシ」
「えー、こちらはチックタック時計店でございますが、××子さんは」
 与太郎が、身分を詐称したのは、練りあげた苦心の策である。
「はい、モシモシ」(しめた! 本人登場)
「えー、こちらはチックタック時計店でございますが、本日お預かりの
時計に、長針と短針をマチガッて取りつけまして……」
「……?」
「やぁ、冗談ですよ。与太郎です、夕方、チックタックの前で見かけた
ので、声をかけようかと思ったんですが……」
「あら、まぁ……」(しめた! 笑ってくれたぞ)
「さいきん、動物園に行ったことはありますか?」
「だいぶ前ですけど、近所の子どもたちを連れていったことがあります」
「こんどの日曜でも、ご一緒したいんですが、ご都合いかがですか?」
「そうね。いいですよ」(やったぁ!)
「では、午後二時に、岡崎動物園の入口で、お会いしましょう」
 かくて与太郎は、その日のために、コロナ・デラックスを磨きあげ、
セパレーツ・シートの助手席に白いレースをかけて、彼女のあらわれる
のを待った。(つづく)
 
 
 
 チック・タック外伝 ← 2003年01月19日(日)おぢいさんの古楽譜

 前稿では、NHK《みんなの歌 1962》より六年前に、ガリ版刷りの
楽譜が存在することを紹介し、下記のHPで公開されることになった。
── http://www57.tok2.com/home/hosannafamily/index.htm

 つぎに、この曲に関するエピソードを、とても興味深くまとめたHP
を発見したので、かさねて紹介する。
── 《世界の民謡・童謡『大きな古時計』特集》
── http://www.worldfolksong.com/gfc/text2/hotomi.htm

 筆者名が記されていないのも、いかにもミステリアスだが、たとえば
歌詞の擬音が「tick-tick」から「tick-tock」に修正されたり、日本語
の訳詞は100年だが、原曲では90年だったことなど、豊富な資料を
簡潔に示すあたり、なみなみならぬ論考である。
 訳者・保富康午(ほとみ・こうご)が同志社大学出身であることから、
ホザナ・コーラスの楽譜に(いちはやく)登場したのかもしれないが、
当時の事情を知るとみられる関係者からの返信が得られないので、いま
なお謎も残されている。
 
“チク・タク”という擬音は、いつごろ日本に定着したのだろうか。
 漫才コンビの晴乃チック・タック(1960-1969 杉浦純一郎&高松茂雄)
は、NHK《みんなの歌 1962》より先に結成されている。
 老舗チックタック時計店も、あきらかに戦前の創業であろう。すると
「古時計」と「チックタック」はセットとして、はるか昔から知られて
いたのではないか。


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WORK, Henry Clay 18321001 米国 18840608 51 作詞
保富 康午  訳詞 19300302 東京 19840919 54 〜《おぢいさんのふるどけい》
晴乃 チック 漫才 1942・・・・ 東京 19860929 44 〜「いいじゃなーい」「どったの?」
晴乃 タック 漫才 19431125 東京       → 高松 しげお/似顔絵漫談


 



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