与太郎文庫
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1999年12月04日(土)  ベニスの小人 〜 明け方の夢 〜

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19991204
 
 絢さん(仮名)と、二十七年ぶりに再会した。
 食事をすませて、通りがかりのショー・ルームをのぞくと、しゃれた
小椅子が目にとまる。店員が、入念に施された三層のスポンジ構造を、
説明する。
 かつての与太郎は、家具デザイナーになるなどと言っていたが、結局
この程度のしゃれたものを何ひとつ作ったわけではない。
 まして、買うつもりもないのに、あれこれ論評しているにすぎない。
「現段階では、この小椅子は簡便で手ごろな作品かもしれないね」
などと話しながら、ショー・ルームを出て、ビルのオフィスに立ち寄る。
 知り合いの連中が数人(なぜか島田紳助?なども居た)ので、彼らに
話のつづきを聞かせてやることにする。
「現段階では、あの小椅子は簡便で手ごろな商品かもしれないね」
 連中は、家具の歴史的概論などに関心はなくて、もっぱらわれわれの
間柄をさぐるような顔つきで、ニヤニヤ笑っている。
 絢さんは、ついと立ちあがると「ちょっと失礼」といって出ていった。
たぶん化粧室にでも行ったのだろうと、無駄話をつづけていたが、その
まま戻ってくる気配がない。連中との応対に愛想をつかしたのか?
 大変だ、いそいで外に出て、人混みの中を捜そうとしたが、見あたる
はずがない。せめて、自宅に電話して「さきほどは失礼」とだけ伝える
ために、公衆電話ボックスに入る。
(なにしろ二十七年ぶりだから、いまの手帳には載っていないのだ)。
 電話ボックスに備え付けの電話帳は、なぜか別の地域ばかりなので、
いそいで番号案内を呼び出す。
「××3の××4×番です」「何だって?」途中よく聞き取れないので、
いくども声を荒げて聞きかえす。番号案内のおばさんは、
「そんなに大きな声を出されては困ります。その調子では、相手の方も
ご迷惑じゃないでしょうか」などという。
「何をいっとるんだ、アンタの知ったことか!」と怒鳴って、受話器を
切ってしまった。
 電話ボックスを出ると、見知らぬ人々が無表情のまま歩いている。
 そうだ、これが与太郎の人生だったのだ。与太郎が絢さんを尊重し、
求めていたものは、ものしずかで優雅なふるまいだったが、与太郎自身
なんという粗雑な態度で右往左往してきたか。
 そうか、これが与太郎の人生だったのだ。
 
 夢から目ざめて、なぜか《ヴェニスの商人》を思いだす。
 シャイロックは、それほど悪くはない。借金の担保として同じ分量の
肉を提供すると契約したものの、返せないからといって恋人が裁判官に
変装して、論理的にゴマかすのは、やっぱり変だ。シェークスピアは、
観客たちを嘲笑しているのではないか。アンタ方は、文化人だ教養人だ
と思ってるらしいが、シャイロックのような不労所得があるからこそ、
正装して劇場に来れるのではないか。
 
 そもそも旧約聖書では、ユダヤ人が同胞から利息を取ることを禁じて
いる(異邦人に対してならよい)。キリスト教では、金融業そのものを
禁じているので、これをユダヤ人だけの賎業として許可した。
 イスラム教では、こうした民族差別をしないため、近代になってから
無利息銀行を開設している。金融は投機であり、これに利を認めない。
 国際的な経済市場において、利ざやを認めない人たちが、それなりに
資金力をもつと、わけがわからなくなるのは当然だ。
 中国共産党が「白い猫も赤い猫も、ネズミを取るなら良いネコだ」と
いいはじめて数年後、ソヴィエト共産主義は崩壊してしまった。
 
 ◆
 
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=1762690
No.1762690 質問:キリスト教の銀行業と,ユダヤの金貸し
 
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=1856462
No.1856462 質問:「ベニスの商人」の裁判が現代に行われたら

http://d.hatena.ne.jp/adlib/19991225
 イスラムの利子
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20030908
 ベニスの承認 〜 ベネチア国際映画祭 〜
 
(20051225)


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