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■ (日記) 一週間
今週に入ってからほんの数日の間に、数年間音信が途絶えていた思いもよらぬ三人の人からコンタクトがあった。
一人目は以前人を介して一時期常連客になったのだが、どうもアタシや常連と波長が合わず、飲むと酒癖もよろしくない女性で、彼女の常軌を逸したある行動が引き金になり、縁を切った。 その彼女から1年前くらいに電話が来たのだが、その時はアタシ自信があまり幸せではなく、彼女と話す気力もなく、そっけなく電話を切ったのだ。 そんな彼女から再び電話があった。 アタシは一瞬どう対応しようか迷ったが、今は気持ちに余裕も有り、幸せだし、普通に対応した。 彼女はアタシの店に又来たいと言う。 なので「来れば良いじゃない?」と柔らかな声で言った。 店の雰囲気を壊さず、常識的なルールさえ守ってくれたらアタシは誰が来てくれても一向に構わないのだ。 誰かがアタシに会いたがってくれると言うのは、嬉しい事ではないか。 でも、飲むのならお行儀良く、楽しんで飲んでよね。 アノ店はアタシが人を受け入れるのではなく、アノ店に住む「ぐうたら神」が彼女を受け入れるか入れないかだけなのだから・・・・・・。 来るもの拒まず去る者追わず・・・。アタシの趣旨は昔から変わらない。
そして二人目はアタシが昔持っていた趣味の教師でも有り、互いの夫の愚痴や本音の悩みなども言い合えた飲み友達でもあり、女性としても人間としても心から尊敬できるステキな人だ。 そんな彼女自身からの3年ぶりの電話だった・・・・・・。 店は大変賑わっており、アタシは片方の耳を押さえながら、一言も漏らすまいと必死に彼女の声を聞いた。 多分彼女の声を聞くのは、これで最後かもしれない・・・・・・。
彼女のカルチャースクールは20年も前に辞めていたのだが、彼女と彼女の連れ合い(当事はまだ恋人同士だった)とはその後も付き合いが有り、前にやっていたエポックと言う店にはしょっちゅう来てくれていたのだ。 それでも彼女が念願だった結婚をしてからは長年音信が途絶えていた。 アタシがからくり箱を経営した当初、偶然にスーパーで彼女に再会し、再び店を始めたことを伝えた。 彼女はアタシの店の出店を心から喜んでくれ、早速精神科医である愛夫と二人で開店祝いに飲みに来てくれたのだ。 彼女の結婚は色々な困難を経て結ばれたもので、晴れて夫婦となった二人はとても幸せそうで仲むつまじく、じゃれあうような可愛い言い合いをしながら楽しそうに飲んでいた。 アタシはその姿を見て、とても微笑ましい思いをしたものだ。 しかし、彼女の元気な姿を見たのはそれが最後だった。
「近々又来るからね」と言って元気に店を出たのに3ヶ月間も4ヶ月も連絡が無かった。 こちらからかけようかと思っていた矢先、彼女から携帯に留守電が入っていた。「マキちゃんに話したい事があるの・・・」その切羽詰った声にアタシは嫌な予感がし、夫婦間で何かが有ったか、アタシが店での応対で粗相をしたか、そんな理由だとばかり思っていたのだ。 直ぐに連絡をしたのだが、そのまま音信は途絶えたままだった。
そんな電話を貰い、音信が途絶えれば、気にならないわけが無い。 気を揉みながら数日が経ったある日、彼女の夫である先生から彼女の肺癌を知らされた。 しかも彼女の癌は両肺で、もう手術もできないものだと言う。 彼女は過去、アタシが癌だった事を知っていたのできっと相談したかったのだろう・・・・・・。 しかし余りの病気の進行度と深刻さにショックを受け、彼女は完全に心を閉ざし、外部との接触は一切断ち切ったしまったのだ。
その後彼女の夫は何度もからくり箱に足を運び、彼女の容態や近況を知らせてくれ、二人で遣り切れない思いをしながら酒を酌み交わした。 彼の憔悴振りは傍目から見ても気の毒で、精神科医なのに、まるで患者も同然だった。 此処最近、飲みに来ないので少し気になり始めていたのだが、一昨日、アタシがコンビニに氷を買いに出ている間にお客が「Jさんという女性から電話が有ったよ」と知らせてくれ、電話番号を控えてくれていたらしく、誰だろうと首をかしげながら掛けてみたのだ。
それは彼女自身からの電話だった。 彼女の声はとても細く、時折苦しげに咽びながらも必死でアタシに喋りかけている。 「マキちゃん、アタシはもう長くは無さそうなの・・・。それで最後にマキちゃんに頼みがあって・・・、思い切って電話したのよ」 アタシは何て答えて良いか言葉を失った。 『だめだよ、そんなに弱気になっちゃ・・・・・・』そんな陳腐な事しか言えなかった。 彼女の頼みは、ご主人は甘えん坊なので、一人になったら生きて行けそうもないと言う。そんなご主人を残し心配で死んでも死に切れないので、マキちゃんが誰か良い人を紹介してあげて欲しいと言うのだ。 『ダメだってば・・・、先生はJじゃなきゃダメなんだから・・・・・・、だからお願いだからそんなこと言わないでずっと傍に居てあげてよ・・・・・・』 けれど彼女は必死に訴え続けてる。 『解ったよ・・・、酒飲み仲間くらいは紹介するから、Jも早く飲みに来られるように希望を捨てちゃダメだよ・・・・・・』 もう声にならず、彼女と電話を切った後、アタシは恥じも外聞も無く、客達の前で泣きじゃくってしまった。
人間はこんな時、ありきたりの事しか言えない・・・・・・。 人間はこんな時なんて言えば良いのだろう・・・・・・。
彼女の命が後どれくらいなのか、アタシには解る。 何人も見て来たので解る・・・・・・。 最期の願いを託されたアタシは、どうしたら良いのだろうか・・・・・・。
彼女は最後にそういう人を早く見付けて私に連絡を頂戴、それまで頑張るから・・・と言い、か弱く笑った。
見付けてなんかやるもんか・・・。 そうしたら安心して旅立っちゃうでしょが・・・・・・。 彼女に奇跡が起きてくれる事を、強く強く願うしか無い・・・・・・。
三人目は、昨日気付いたのだが、数日前に東京の従兄弟からメールが入っていた。 「猫の事ばっかりで退屈です。東京の親類の事でも書いてくださいな、ねっ、初美ちゃんよ・・・」だって・・・。 彼はアタシより1つ年上の従兄弟で、毒舌で辛辣で、会えばよくからかわれていた。 パソコンをしていたのも知らなかったし、数年前92歳で逝った祖母の葬儀以来だ。 メールに名前が記されていたので久々に電話をしてみたらやっぽりそうだった。 ネットで身内の事を検索していて、アタシの日記に引っかかり、最近から日記をたまに読んでくれてるみたいだ。
アタシにはまだ親戚が居たんだよなぁ・・・・・・。 そんな事を思わせてくれたメールと電話だった。 メールありがとうね(A) 又、時折の接触、よろしくです。
この一週間、色々な事があり、アタシの気持ちはもみくちゃだ。 今日は例の4駆オカマの歌謡ショーだ。 賑わってくれる事を祈る。 明日は昔の常連達が15人の予約をくれている。 物事を噛み砕いて浸っている暇も無く、アタシの今週はめまぐるしい・・・・・・。 喜怒哀楽と睡眠不足がいっぺんに襲ってきた、あわただしい一週間だ。
2007年11月16日(金)
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