ミナミノシマへゆき 笑い泣き怯え慰め そしてまた笑った
ああかえりたくないね そうだねかえりたくないね
そういいあいながら 帰りのヒコーキが飛び立たないことを祈りながら 眠りながら海を渡ってきてしまった
わたってきてしまった。
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かえるうちなんてどこにもないから
旅に出てしまったら
それでもう、おしまい、なのよ、
ぱちんとつぶれるようになにかがつぶれて
あとはもうふらふら風みたいに笑うだけで
だからほんとうはその足でそのまま
君に会いにいきたかったんだよ
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旅人は恋文を書く
かえるうちがないから
かえるあなたをほしがって
たくさんの無数のほんとうのことばを
見渡すそこらじゅうから見つけずにはおれず
たびびとは、恋文を書く
このばしょをあいするようにあなたがすきだと
くりかえし
くりかえし
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おみやげは白すぎる海辺で拾った手のひらひとつぶんの貝殻。 白すぎる色とはかなすぎる薄さともろさと力強さで。 頑丈な靴を脱ぎ捨て草履に履き替えペチコートを脱いではだしになり あみさげをほどいて風にあおられるまま笑ってしまっていたから あたしはもう帰れないような気がして すごくしあわせになって叫んでしまった
そうして、こわくなってしまった
あなたを抱きしめてくればよかった 忘れないぐらいに強く あなたに抱きしめてもらってくればよかった
かえりたい かえりたい かえりたい
どこへ帰りたい?
わからないよそんなこと。
ただ東京の空が狭くて 窓を開ける気になれなくて 空気がつめたすぎて あたしはたちまちもとのように はんぶん閉じられてしまったみたいで
かなしいね
かぜをひいた。たちまちのうちにかぜをひいた。 かえりたくなかったってかぜをひいて おふとんのなかで熱をまとっています。 くらくらする頭が何の夢もみてくれない。 だれかあたしにことばをください。
数日前 あの死神は、うすくわらいながら招く人は 左肩の後ろに住み着いていた ミナミノシマでは彼はすごく遠かった ときどき現れはしたけれど、いらないよといえばすごすごとひきさがり 気配だけ遠くにのこしてこっちをうらめしくみてた
その余韻で いまは 薄笑いが つよくなる
こわい、が ふたたび
はじまる予感
こわいよ
ねえ
こわい
13日、夜
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