どこにもいられないのだという声が大きくて大きくてしかたなく ねじれていく思考を自分で止めることができなかった、 誰のことばも役に立たない、 どうして あたしはどこにもいちゃいけないんだろう。 くるしいと言って吐くように、泣いた。 誰もいなくなったことを確かめてのちにはじめて涙は それらすべてすぎてしまったことのために。 誰にも誰にもしられないように。
くるしいと言って言って言い続けて、 だれのところにもとどかず、 涙も出ない。 そらがあおい、 せかいはあんまりうつくしいから あたしはまるで 今すぐにでも消えてなくなってしまえそうな気がしてならない そうそこに流れる大きな川の流れにすいこまれて コンクリートの坂をころげおちてしまえとか そういう声が 肩の後ろあたりからがんがんと響くので。
……それでもまだ生きておりますのでなにもしんぱいすることなんてないのですきっと
あたしはだいじょうぶ。
あのひとのほうがだいじなのね ひとのまえでなくことのできるひとのほうが きっと、 はじめに泣いてしまったほうが、勝ちなのだ わたしはすでに走り出し遅れたのだから ぜんぶの泣き言に目をつむってなかったことにして 笑い続けろと、そればかりを 言い聞かせて必死になっている、それだけだ。 からまわり、 ほころびだらけの日々で。
そういういやなことからのがれられずにいきている。
とりあえず今は八月も三日を過ぎて 伝聞形でことがらをのこす。 木曜日のまよなかマグカップと薬袋を抱えてうちをでてゆき 睡眠薬だの安定剤だのを路上で車の数を数えながら飲んでいた わたしが飲んでいる睡眠薬というのはふつうのひとが服用すると 一日くらいは眠りっぱなしになるらしい、 とりあえず、それくらいにはつよいらしいと、 そうしてわたしはねむりたかった。 が ねむれなかった。毎日毎日。
翌日、金曜日、 目を覚ましたらきちんとまだ朝のままだったから またこれからなんとか二十四時間を やり過ごす覚悟をかためなくちゃいけないと歯をかみしめた 骨格がゆがんでるんじゃないかと。感じることが増えた。
同日、電話がかかってくる。 内容がさっぱり意味不明、話がちっともかみ合わない。 聞いてみればなんだかわたしは今朝いっぺん目を覚ましていて それでパジャマのまんまバス停まで歩いていったり 病院に行くとかもう戻らないとか東京に行くとかなんとか、 よくわからないことをたくさんやっていたらしかった。 夜ごはんは恋人さんと食べるんだとごねまくっていて 家人にもさんざんそう宣言していたらしい。 しかもその電話も2回目の電話だったらしい。 一回目の電話がいつあって、いったい何を話していたのか それもやっぱりおぼえていない、、、、いったいなにをやっていたのか。
それで夜、気がついたら高田馬場とかいうところにいて しらない人とごはんを食べていた。 どうやってそこまで行ったのか、それがまた さっぱり思い出せない。 バスに乗った記憶とか電車に乗っていた記憶とかそういうのがなくて 電話を切ったあとに料理屋さんまでワープしちゃったみたいなもので。 どうやらわたしは出かけるらしいということがわかったので 準備か何かをして自動人形のようにうちを出て行ったのだろうか。 2時間くらいもかかるはずなんだけど。 乗り換えも、けっこういっぱい、あるはずなんだけど。 何をしていたのだよ、あたし。
かくして。
なんでここにいるんだっけとあほなことをここ数日で何回も尋ねていて 恋人さんにはだいぶ、あきれられている。 昨日とか何をしていたのかまたよくわからない、 というか何日この場所にいるのかよくわかってない、 自分をめちゃくちゃに傷つけたような気も、する。 いろんな意味で。
そう、今のところ うちにかえれなくてまだ トウキョウトの隅っこにいます。
もう、やめようという思いが 断続的に、決定事項のように なんどもなんども 頭のなかに飛来しては居座る。 なにをやめるの。 ひとにめいわくをかけること? わたしはわたしをやめなくちゃいけない、いけない、 つっぱしって夜中にとびだしてゆくので恋人さんはまっさおだ。 ああいいかげん別れてしまった方が楽なんじゃないだろうか? わたしはとんでもなくばかなんだけど、それでも必死で あのつまんない「おまえはしねあとかたもなくきえてしまえ」という命令に さからおうとしているのだけれども。
……いていいと、思える場所なんて、ひとつも思いつかない。
今日は、きもちわるくて仕方なかったけど でもがんばってごはんを食べたから それは少しだけ自分をえらいかと思った。 たまごとサンドイッチ二切れを一時間かけて食べた。 いちにちぶんのごはん、でも食べたから、 吐きたかったけど、そうならないように がんばったから。
どこで眠ったらいいんだろう。
おつきさまでも見に行ってしまいたい。
星でも。
まっくろな夜でも。
川の水がちらちらとひかっていて 高速道路のあかりがビーズの首飾りみたいに きれいにみえて
地鳴りを起こすトラックの車輪にそのたびたたきのめされながら。
お守りが見つからない、いっぱい集めたはずなのに こっこの歌だけ大声で歌ったけれど そらはすごくすごくきれいだったから 帰り道を見つけなくちゃいけないと思ったけれど
まっくらになってしまった
指輪はなくしちゃったのか 恋人さんが持って行った かえしてくれない さびしい さびしい
もううまく息ができない。
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
8月3日、深夜
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