目を覚まし続けて気合いを入れる、 眠って起きたらがっくり落ちる、 そういうことをくりかえして 熱はなかなか下がる気がないようで、目の奥がじんじんと熱い そういう日、 からだは活発にただいま炎症製造中をやっていて発疹がどんどん増えていく 真っ赤な皮膚、そんなことでがんばるなようととても言いたいけど なんだか言葉が通じないらしいや おさまったと思って喜んだら数時間後にまた熱が出てきて かなしくなる、 ひゅーんとまっさかさまに落ちていく
終わりの見えない闘い、か?
(それほどのことでもないよね?)
腕があがらなくて食べ物を口に運ぶのがつらいことなんてしばらく忘れていました 絶食してみようかと発作的に思ったけど それはいきすぎかと思うので 玄米ごはんをお茶碗に半分、 しつこくしつこく噛んで食べました 一口につき100回噛んでみましょう かみかみかみかみ
……口の中のごはんがきちんと半液体に変わっていくのに感激している ただひとかみをおろそかにしない、 この闘いに勝とうと努めるっていうことは そういうことなんだろうな 多分。
こまかいことから順々に。
そういうことだから努めてかみかみします。
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外でときどき猫が鳴いている。 このあいだまで遊びに来ていた灰色猫ではないの、 ちびな黒猫、 まだこども。
どういうわけか急にやってきてその日から家にべったり、 ほとんど一瞬も離れていないんじゃないだろうか 最初の夜なんてひとばんじゅう家の周りをぐるぐる回りながら泣いていた みゃあみゃあみゃあみゃあ 開けてよう開けてよう入れてよう そう聞こえる 泣いてる
まだちいさいから体も軽くてそこらじゅう跳ね回っていて 濡れた足なんて細すぎて猫というよりコウモリみたい だんぜん家猫志望らしくて まっしぐらに飛び込んでくるのを放り出し、放り出し 投げても投げてもどこにも行かない 食べるものがなんにもなくてもどこにも行かない きみは本当に野良なのか
猫はたしかに好きだけど一緒に暮らすのはあんまりリスキーで なにしろアトピー、 今以上に体がぼろぼろになる可能性が否定できなくて そうなったときに正気で動物を可愛がれるかと言うと自信はなくて 痒くて痛いがピークのときにそれ以外のことが頭に置けるかというと悔しいけどNOで そうすると下手にここで可愛がるわけにもいかないし 責任もてないのにごはんをあげるのもどうかと思うし…… などなど 家猫志望の一匹を前に ぼくはおろおろとかなしくなってしまう
外は雨降りで ときどきそいつが みゃあ、と鳴く
人の気配を感じると飛んでくるものだからどうにもせつない まだちびだし、ひとりでつまんないのかな 遊んでほしいんだろうな ろくに食べないであんなに鳴いておなかすくだろうにな ああ猫一匹ともまともに付き合ってやれんのかい いざとなったら獣医さんに連れて行って注射と不妊手術くらいはししなければ でもほんとうは立派な野良になって欲しい 人間の側の勝手だよ 愛と覚悟なしに生きものとは付き合えん でも目の前で飢えて死んでいかれたらどうなんだろう ああ勝手、勝手、勝手だよ などなど
くどくどと思いかなしくなっていくぼくはともかく彼女は軒下ですうすう寝ている ふかやねぎと書いてあるダンボールの 葱の外側をむいたのがふんわりかさかさ言っている場所で まるくなって落ち着いている
猫型のくぼみ
なにを思って来たのかは知らないけれど どうして落ち着き先を決めちゃったのか 聞いても猫の言葉はぼくには通じないので 今は寝かせておくくらいしかないみたいで
眠り猫 すやすや ふわふわ
いずれにせよ 外には雨で いずれにせよ 体には熱で
そうして明日も来るだろうから とにかく今日も過ぎたのだから
繰り返されてしまう浮き沈みのことをかなしみすぎないようつとめながら おやすみなさいを言いましょう
また、明日。
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