みちる草紙

2005年06月11日(土) カチューシャの唄

この頃、読書をしても、時間が経つと内容が忽然と頭から抜けている。
いやもしかしたら、すでに十代から老化は始まり、今はそれに加速がついてるのかも。

トルストイの『復活』は、学生時代に一度読み通したのだが
荒筋は覚えていても、ディテールは大部分が記憶から失せているので
今回の入院の際、暇つぶしに読もうと文庫を病院に持ち込んだ。

前回は骨折したてで殆ど身動きが出来なかった上、入院も長期に及んだので
ドストエフスキー5冊も難なく読み終え、追加を家の本棚から持ち出すほどだったのに
今回は、なまじ動き回れたせいか、ベッドでじっと読書に耽る集中力を欠いた。
また、売店で買った雑誌ばかり読んでいたので、上巻を読み上げるのがやっとだった。
そんな訳で、退院後の今、度々中断しながら下巻を間もなく読み終えるところである。

戦前から‘♪カチューシャかわいや 別れのつらさ’(中山晋平作曲)の歌謡で親しまれ
日本でもよく読まれた有名な小説であるので、物語の紹介は省くが
貴族の養女から娼婦、そして徒刑囚にまで身をおとしたカチューシャの話は
原作者のトルストイが、自身の悔悟の体験と、知人から聞いた話を脚色しつつ
書き起こした実話がベースになっているという。

これは小学生くらいだったか、テレビで何かのドラマを見ていたら
オープンロールに “原作 トルストイ「復活」” とクレジットが出ていて
ああ、これは外国の設定を日本に置き換えた話なのだ、とその時思った。
連続ドラマで、日本の明治の頃が舞台だったように思うが定かでない。

昔、父に教わって知っていた、もう一つのカチューシャの歌の詞は
‘♪りんごの花ほころび川面に霞たち 君なき里にも春はしのび寄りぬ’(ブランテル作曲)
というもので、ロシア民謡風の哀調から、曲はこちらの方が好きだった。
この歌も、日本語詞がそれっぽいので『復活』のカチューシャがモデルなのだろうと
ずっと思い込んでいたのだが、調べてみたらどうも違うようだ。
題名も前者は“カチューシャの唄”で、こちらは“カチューシャ”。
原曲は、第二次大戦下の旧ソビエトで、ナチスドイツ軍に捕らえられ殉国した
女性兵士を偲んで作られたものとして、赤軍を鼓舞する歌らしい。
確か“ポーリュシカ・ポーレ”もそうだったと思うが、パチンコ屋で流れるあの
軍艦マーチなどとは違い、どちらも軍歌にしては美しすぎ、また悲しすぎる曲である。

中学生の時、海外文通に凝っていて、ソ連の子とペンパルになりたいと言ったら
先生に「あの国とはダメなのだ」と却下されたことを覚えている。
折しも1980年代初頭。共産党独裁下で、ペレストロイカはまだずっとあとのことだった。
“トロイカ” “カリンカ” “一週間” “ポーリュシカ・ポーレ” どれも幼稚園で習った。
おろしや国はあまり好きになれないが、文学と民謡だけは、永遠のお気に入りである。

ヘアバンドのことを「カチューシャ」と呼ぶのは、あのプラトークから来てるのかなぁ。


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