みちる草紙

2002年10月05日(土) 悲しい酒

夜の銀座。
大いに飲みかつ喰らった勢いで、皆が上機嫌にカラオケボックスへなだれ込み
アタシは社長はじめ上司連中に暴言を吐きながら、隣に座ったおない年の弁護士に
「せんせ、でゅえっとしましょ♪」と言ったとか言わなかったとか
また社長を捕まえて「あら、お金儲けのことしか頭にないのかと思ったら♪」
と口を滑らせ『その発言はイエローカードだぞ♪』と和やかに注意されたりとか
そんなのは、瑣末な事象である。思い出しただけでも顔から火を噴きそうで
キリキリ胃痛を起こしそうなほど月曜日からの出社が億劫になるとしても。
酒席に臨む最初は、いつも「今回こそは淑女風に」と気を引き締めてかかるのに
結局なんでいつもこうなるかなぁアタシ。

気がつくと11時半をまわっており、急げば電車の時間には充分間に合ったのだが
社長が『みんなタクシーで帰ってくれていいから』と言うから、んじゃまぁ折角だし
ってことになって、途中まで同じ方向の部長と一台のタクシーに乗り込んだ。

「運転手さん、最初野方で1人降りるから、そのあと光が丘に行ってくれる?」
『はい、承知しました』

車の後部座席で頭を揺すられてみると、思いの外酔いが回っていることが分かる。
コメカミがものすごい力で締め付けられ、脳味噌は前後左右斜め方向にと
千切れんばかりに引っ張られているようだった。
幸い、気をしっかり持っていれば嘔吐はせずに済みそうだと思い、努めて部長に
研究所のことやヴァイオリンのことなど、聞きかじったばかりの話題を拾い出しては
取りとめもない会話を途切らせぬようにした。
相手の話すことは酔った頭をつるつる素通りして行き、それでももっともらしく
相槌を打つうちに部長の中野区の自宅に着き、酔っ払いらしい大仰な挨拶をして辞する。
車はそこから一直線にアタシんちへ向かった… 
筈だった。

「ねぇ運転手さん、ここからどのくらいかかる?時間」
『う〜〜ん。20分か30分くらいだねぇ』
「あら?もっと近いかと思ったらそんなに?そう。ふぅん」

一瞬だが、妙だとは思った。しかし例え幾らかかろうが、あとで立替精算されることだし。
ただ不必要に大回りされてはと、メーターを睨む恰好で座席の真ん中にどっかり陣取る。
アタシが早く降りたがっていると察したのか、運ちゃんは許す限りとばしてくれていた。
ああ、家に着いたらお茶飲むだけで何もしないで、のめりこむように寝てしまおう。
と、うつらうつらしながら考えていると、不意に車が止まった。
『はい〜着きましたよ』

さて、駅前だと言うものの、それは全く見知らぬ風景であった。
金曜の深夜、アタシは一体どこへ連れて来られたというのか。

「…あ?…あの、おじさん。ここ、どこ?」
『な〜に言ってんのお客さん。ひばりが丘の駅じゃない』

そこで酔いが一気にぶっとんだのは言うまでもない(-_-;)


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