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■ 「煙草をやめるよ」その言葉は消えた
=「煙草をやめるよ」その言葉は消えた=
あでやかなイヴの夜を裂けるようにして、暗く寒い道を歩いていく。少しでも光の気配を感じると体の向きを逸らし、人々の話し声や、足音、幸福の音がする方向から目を背ける。すでにボクは、この混乱が、深い悲しみを背負っているのを感じていた。昔、小さい頃、夜のことを考え続けているとそれがやがて悲しみの涙にかわっていたように、混乱は音もなく悲しみに変わっていた。「どうしてボクは泣いている?」ボクはちいさな山に続く細い坂道に辿り着いていた。冬にでも葉を落とさずに樹が、その道を守っている。ボクは途方に暮れる。煙草を一口でも吸いたいと思う。でも、ボクはそこで思い出す。「煙草はやめるよ」そういって泣いた。 だいぶ温かくなってきた春の事だと思う。ボクはその頃ある女の子と仲が良くて、付き合ってるのか付き合ってないのかよくわからないし、別に付き合ってなくても一緒いられれば落ち着くからそれ以上は望まない、そういう関係にあった。彼女とは海に行き、たき火をし、飛び込み、家でゴロゴロし、動物園へ行き、一緒にいた。この子のことは不思議と良く思い出す。今まで付き合ってきた女の子と比べるとどうしても見劣りがするし、これと言って特技もないし、クッキーを焼かせたらボクより不味いときている。どうしてだろうか、特にこの頃、ボクはこの子のことを考える。その日を思い出した。ボクは、あの山の上で煙草を吸わなかったはずだ。
2005年03月22日(火)
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