『ガール』 奥田英朗 (講談社) - 2006年09月17日(日) <思わず“新・短編の名手”と言う言葉を授けたくなるぐらい読者を溌剌とした気分にさせてくれる短編集> 30代の働く女性を主人公に据えた短編集。 同じ講談社から2002年に発売された40代の男性管理職を主人公とした短編集『マドンナ』の姉妹本と言えそうな本作。 両方読まれた方は賛同していただけると確信しているが、本作の方が“輝いている女性”を描いているために読後感がさらに良いのである。 本作の特徴は女性の微妙な心理を男性作家ならではの鋭い観察眼で読者に思う存分披露してくれている点。 既婚・未婚問わずに働く女性の方には是非読んでいただきたいなと思う。 必ず相手方(既婚の方は未婚の方の、また未婚の方は既婚の方の)の気持ちが十分に理解でき、なおかつ尊重できるのである。 なぜなら人生の価値観は人によって様々で然りであるからだ。 各編、読後読者それぞれが元気をもらいそれぞれの幸せへと一歩踏み出したような気にさせられる。 奥田さん、伊達に直木賞取っていないなと思わずにいられない。女性作家のように毒づいたところは少なく幻想的な部分は皆無といってよいが、女性作家顔負けの微妙な心理を的確に描写している点は見事のひと言に尽きる。 本作の5編は2003〜2005年までの間に小説現代にて掲載された。 くしくも直木賞を受賞した『空中ブランコ』と同時期に書かれていたのである。 もし本作で直木賞を受賞していても何の依存もないと思うのはわたしだけではないであろう。 なぜなら、どの主人公も伊良部先生ほどユニークではないが、伊良部先生よりリアルで読者の胸の内に迫ってくるからだ。 少なくとも男性読者の私が読んだ結果として、働く女性に対する気配りがほんのわずかかもしれませんが以前より出来るような気になりました。 奥田さんの願いが少しは届いたのかもしれませんね(笑) 直前に読んだ山本幸久さんの同年代女性を描いた短編集『男は敵、女はもっと敵』との出来栄えに雲泥の差があったために余計に感じるのかもしれないが、本作は全5編とも秀逸な出来なのであると断言したい。 たとえば冒頭の「ヒロくん」。主人公の女課長聖子の旦那の名前なのであるが、彼は妻を十分に理解して働きやすい環境作りを念頭に置いて生きている。 そう、陰で支えているのだ。 「男が怒ればカミナリを落とした、女が怒ればヒステリー、 厳しい現実をエンターテイメント性十分に交えて人生の岐路に立った素敵な5人の女性を描いた本作。 明日、会社に行けば似た主人公が身近にいることに気づくかもしれません。 あなたも是非手に取って賛同して頷き、そしてエネルギーを補給してほしいなと思ったりするのである。 人生も読書も楽しいほうがいいですよね! オススメ(9) ...
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