『沖で待つ』 絲山秋子 (文藝春秋) - 2006年09月05日(火) <表題作の芥川賞受賞作品と芥川賞候補作品との2作品を収めた贅沢な短編集> 絲山さんの私のもっているイメージは“センスの良い”作家。 本作品集でもセンスの良さを遺憾なく発揮している。 まずは「勤労感謝の日」 男性読者としては、共感はしないがグサリと読者の心の中をえぐってくる作品。 生々しい表現が目につき、想像するにまるで素人のブログの記事いや女性週刊誌を読んでいるような気分にも陥る。 でも本当の絲山さんの特徴(良い悪いは別として)が出てるのは表題作よりこちらのほうではないだろうか。 この作品の評価なんかは合うか合わないかなんで、声高に叫びたくないのであるが、私的にはどうもすっきりしなかったのである。 やはり主人公のあまりの厭世的な姿勢とそれとは対照的な見合い相手の滑稽な姿。 タイトルも皮肉っていて面白い。 失業中の36歳の主人公の独身女性恭子が、勤労感謝の日に一流企業に勤める“ダサ男”と見合いするのである。 なんとその男の趣味は“仕事” 私的には作者の最も揶揄しているところがこの言葉であると感じ取った。 女性読者が読まれたら共感する部分が大きいのであろう。 いくら一流企業でもこんな男とは絶対結婚したくないという思いを誰もが抱くのである。 次に「沖で待つ」 こちらは紛れもなく“心に響く物語”である。 住宅設備機器メーカーに女性総合職として入社した主人公の女性と、同期入社の太っちゃんとの熱き友情と働くことの意義を問いかけた作品。 少なくともバブル絶頂期を体感したことのある方が読まれたら、リアルに感じ受け入れれるはずだ。 登場人物にも他作に感じられる投げやりなムードも感じられずに自然と自分自身を投影できる。 自然と過去のことを思い出さずにいられなくなり、思わず俺って年をとったなあと感じた読者も多いはず。 作者の略歴を拝見して、この作品は作者自身も思い入れの強い作品であると容易に想像できるのである。 今後、芥川賞を目指す作家にとってのお手本となる作品と言っても過言ではないような気がする。 なぜなら、この作品には“強い主張”が感じ取れるからである。 それは“働くことの尊さと人間関係の大切さ”であると私は理解している。 誰もが持ち合わせている不安感を和らげてくれる効果覿面な作品である。 面白い(8) この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年9月15日迄) ...
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