『僕たちの戦争』 荻原浩 (双葉社) - 2005年03月12日(土)
戦争が終わって今年で60年となる。 昨年発売された本作は同じく“回天”を題材としてるところから横山秀夫氏の『出口のない海』とよく比較されるが、内容的には異質のものである。 横山さんの作品はまさしく“直球”まっしぐらな“熱き”作品であるが、本作は“チェンジアップ”満載の作品である。 両作家のそれぞれ持ち味が充分に発揮できている点が、読者に取っては嬉しい限りである。 未読の方は是非読み比べて欲しいな。 本作はいわゆる“タイムスリップ”ものの秀作に仕上がっている。 片や同時多発テロの起こった2001年から1944年にタイムスリップするフリーターの健太、もう一方は1944年から2001年にタイムスリップするお国の為に日々訓練に明け暮れていた飛行術練習生の吾一、どちらも同じ19歳である。 荻原さんの巧みな点は、どちらも現代(2001年)と過去(1944年)を象徴する“ある意味平凡なキャラの人物を起用”することによって、戦争を私たち読者に身近なものとして提示している点である。 他の作家ならもっと“戦争もの”と言えば身構えて読まなければならないのであるが、荻原さんの作品だと容易に入っていけるのである。 あたかも読者が本の中に“タイムスリップ”したように・・・ 読者は否応なしに、現代から過去にタイムスリップした健太と、過去から現代にタイムスリップした吾一との境遇を比べてしまう。 どちらも当然の如く驚愕の毎日を過ごすのであるが、もちらん現代にタイムスリップした吾一の方が平和で安全である。 あと、作中に出てくる恋人役のミナミも印象的だ。 恋愛&友情小説としての側面を本作で見出したのははたして私だけであろうか? ラストにてミナミが身ごもっていることが明らかになる。 吾一の子なのであるが、健太が自分の子と同じように感じ育てていくであろうと読み取った。 お互いが入れ替わった2人が会ったこともないのに“確固たる友情”を築いた証だと受け取りたく思う。 いや、お互いがお互いの“分身”なのであろう・・・ 淡い青色の海に突進していくミナミの後を追いながら吾一は思った。 そういった意味あいにおいては、回天のシーンなど感動的な側面においては横山さんの作品の方が上であるが、清々しさでは本作の方が上だと言えそうだ。 必然的に本作はいろんな読み取り方・感じ方が可能である。 それは荻原作品の醍醐味でもあるのであろう。 例えば、“自分さがし”的な読み方をしても面白いのかもしれない。 あるいは、恋人や配偶者に対する接し方などを考え直してもいいのかも。 少し余談であるが、もし同時多発テロが発生してなかったらこの作品は生まれていたのであろうか? もういちど、私たちの今生きている平和な環境について考えて見たいと思ったりする。 評価8点 2005年23冊目 ...
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