『野ブタ。をプロデュース』 白岩玄 (河出書房新社) - 2005年01月08日(土)
本作の著者の白岩玄さんは京都市出身の21歳。 第41回文藝賞受賞作であるが、今回芥川賞にもノミネートされた。 発表前に読むのは選考委員になりきって読めるので楽しみである。 ちなみにもし受賞されれば男性としては史上最年少となるらしい。 若い世代の作家らしく言葉が溌剌としている。 どちらかと言えば純文学というより、エンターテイメントの方向を目指して書かれた方が成功するような気がする。 なんといっても描写力に優れた作家である。 たとえば、主人公桐谷修二が人気者になるべくプロデュースする、転校生の野ブタこと小谷信太の登場シーン。 生理的に受け付けない男に対し、女はとてつもなく残酷だ。その残酷さは出会い頭にいきなり辻斬り無茶苦茶なもので、この太平の世に無情な人斬りがうようよいるかと思うと、世の気持ち悪い要素を持つ男性諸君はいつ斬られるかとビクビクしているだろう。 物語は序盤は“野ブタ。”のキャラを中心に笑いを適度に交えて進んでいくが、中盤以降は主人公の生き方(作中では“着ぐるみショー”と言う言葉を使っている)を中心に方向転換。 結構リアルな話となっている。 やや内面描写が稀薄な気もするが作者の言いたい事はしっかりと伝わってきた。 言葉は人を笑わせたり、楽しませたり、時には幸せにすることもできるけれど、同時に人を騙すことも、傷つけることも、つき落とすこともできてしまう。そしてどんな言葉も、一度口から出してしまえば引っ込めることはできない。だからこそ俺は、誰にも嫌われないように薄っぺらい話ばかりしてきた。言葉には意味を、意志を持たさぬように、俺は徹底してきたつもりだった。 ズバリ本作は“自分探しの物語”なのである。 学生・社会人・主婦に関わらず、読者も必然的に日常の自分の周囲で起きる物事に対して少し考え直しきっかけとなる作品であろう。 少し心に“メスを入れられた”って感じがする作品である。 このあたり作者の非凡な才能を垣間見たのは私だけであろうか・・・ たとえ今回芥川賞を逃しても、近い将来直木賞の有力候補になる可能性の極めて高いハイポテンシャルな才能を持った作家の誕生を祝福したく思う。 評価8点 2005年5冊目 ...
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