『7月24日通り』 吉田修一 (新潮社) - 2004年12月24日(金) 7月24日通り 吉田 修一 『東京湾景』でその高い才能を恋愛小説というジャンルにおいても読者に披露してくれた吉田氏であるが、本作は前作に負けず劣らず素晴らしい作品に仕上がっている。 彼の小説は総じて読者の日常に密着したものが多い。 本作の主人公小百合は平凡なOLである。 弟・耕治がハンサムであり自慢でもあるのだが、その弟の彼女・めぐみが外見的に釣り合わないことに違和感を強く感じている。 「・・・お姉ちゃん、絶対に間違ってない!本人たちがどんなに信じあってても、いつか必ず信じられなくなるときが来るの!そのとき、絶対にあんたはあの子じゃなかったって思う。自分にはもっと似合いの女がいたはずだって思う。自分が一生を棒にふったのは、あの子のせいだって思う!そうなったとき、一番可哀そうなのは、あの子じゃない!・・・」 彼女自身も高校時代から憧れていた聡史をあたかも雲の上の存在の如く捉えていたのである。 そこに彼女の自分の殻を破れない原因があったのだが・・・ 舞台は東京から離れた地方の港湾都市。 小百合は、自分の住んでいる都市をポルトガルのリスボンに見立てて暮らしている。 たとえば「岸壁沿いの県道」をタイトル名ともなっている「7月24日通り」と言い換えている。 少しそのあたり人生において引け目というか自信のなさの象徴として捉えて読むべきであろう。 しかしながら吉田氏の筆力の高さを窺い知ることが出来るのは、読書好きの方だったら必ず主人公に共感出来るように練られて書かれているのである。 さりげなく、自然と・・・ 少しまどろっこしいと感じた読者は、吉田氏の術中に見事はまった方であるか今まで失恋をしたことのないスーパーマンかスーパーウーマンだと思いたい。 人はきっと恋愛、とりわけ失恋を通して成長して行くのであろう。 聡史といると、何か特別な時間を過ごしているような気がした。珍しくもないカフェで、あまりおいしくもない紅茶を飲んでいるだけなのだが、目の前に聡史という男がいるだけで、もう何年も、何十年もこの時間を待っていたような気さえする。 吉田氏の恋愛小説は本当にテンポ良く進む。 話の展開的にはサンタクロース的な存在となった本屋で遭遇した警備員の男の存在も大きい。 他のジャンルの作品と比べて着地点のつけ方が巧みなようだ。 多くの女性読者から共感されること請け合いの作品である。 オシャレでリアルな作品だけでなく、大きなメッセージを読者に伝えてくれている。 “もう少し自信を持って生きようよ!” 恋愛に限らず一歩踏み出したいと思われてる方、少しオーバーかもしれないが人生の岐路に立った時に読むと自然と勇気づけられる一冊かもしれない。 ケータイ小説として配信され、ラジオドラマ化もされたらしい。読まれる際には是非地図を御覧ください。こちら 個人的には映画化希望したく思う。 スピッツの主題歌なんか似合いそうだな(笑) 是非“納得のいく新鮮な恋愛小説”を手に取ってください。 評価9点 オススメ 2004年114冊目 ...
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