『なぎさの媚薬』 重松清 小学館 - 2004年10月03日(日)
週刊ポストに連載されていたものを単行本化したものである。 昨年発売となった『愛妻日記』のような官能小説オンリーな内容ではない。 重松さん特有のほろずっぱさが漂ってる所がせめてもの救いであろうか? 少し胸をなでおろしたのも事実であるが・・・ 物語は二篇の中編から構成されている。 社会に出た男性なら少なくとも誰しも味わう孤独感に苛まれている典型的な男が主人公。 ひとりは敦夫で43歳で地方へのリストラ対象。もうひとりは研介で26歳の新婚であるが過去の女性とのトラウマで夜の生活が不能に陥っている状態である。 両篇になぎさという魅惑的な娼婦が登場する。 彼女は不思議な媚薬を持っている。 過去の世界へと連れて行ってくれる媚薬である。 今を生きているのに満足できなければ出来ないほど、過去の憧れの女性を助けたい。 男であれば誰もが青春時代に戻って過去の忘れ物を取り戻したい。 自分を取り戻すには青春時代に愛した女性を救うことが命題となって来るのである。 この設定は本当に巧妙である。 主人公の気持ちは男性読者が読めば本当に良くわかるであろう。 従来のファンからしたら官能小説と青春小説を足して2で割ったような作品である。 少なくとも読者(週刊ポストに連載したものだから男性読者を対象として書かれていると限定していいんじゃないかな)が作中の主人公敦夫や研介になりきることが出来るのも事実である。 ただ、官能シーンが多いので他作の感動度とはやはり比べ物にならないのではないか。率直な読後感である。 確かに週刊誌で読めば楽しめるかな。 いまはわからないだろう。だが、おとなになったら・・・人生に疲れてしまったら、わかる。思い出の中に初恋のひとがいることが、そのひとの幸せを祈ることが、ささやかな生きる支えになるんだ、と。 ただ、単行本で女性が読まれたらどうであろうか? 大いなる疑問である。 女性ファンが重松さんに求めているものとは少しずれてるかなというのが本音である。 女性ファンは男性の“本音”を知りたいのであって“本能”を知りたいのではないような気がする。 個人的な結論を言えば、重松さんの文章力で言えばこの程度書けて当然である。 いやここまで官能に力を借りなくても読者を動かせるはずである。 やはり出版不況のあおりを作家がもろに受けているのが1番の原因であろうか。 ファンタジーとして読むのには少しリアルすぎる。 もっとじっくりファンの心を揺さぶる物語を紡いで欲しい。 重松ファンとして心中が複雑極まりない1冊であった。 評価7点 2004年88冊目 ...
|
|