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『ランドマーク』 吉田修一 講談社 - 2004年07月23日(金)

ランドマーク
ランドマーク
吉田 修一

《bk1へ》
帯に村上龍さんの絶賛の言葉がある。
確かに現状の吉田さんって評論家の評価が高くって一般読者の評価が追いついていない作家かもしれない。

私は吉田さんって純文学を変えた作家なような気がする。
いや、新しい純文学の形を作ったと言ったほうが適切であろうか・・・


本作は複数の職業を通じて男の生き方を考えさせてくれるだけじゃなく、家族や女性問題にも触れている。
吉田さんの現代をさりげなく風刺された文章は今を生きる私たちのエネルギー源だ。
小泉首相について言及した部分を引用したい。
『この人の息子ってのは、いい男だもんねぇ。ほら、昔の裕次郎みたいでさ』
おばさんにそう言われ、『そうか?』と隼人は首をひねった。
『やっぱりいいとこ出てんだろうねぇ』
『いいとこって?』
『学校とか、幼稚園からいいところに通ってるから、あんな上品な顔になんのよ』
隼人には画面に映った小泉首相のどこをどう見れば上品な顔立ちなのか分からなかったが、おばさんがそう言うので、こういうのが上品なのだろうと単純に思った。


吉田さんって本作の埼玉県大宮だけじゃなくその固有の土地を強く意識的に描写した作品が多い。
前作の『長崎乱楽坂』長崎、ドラマ化中の『東京湾景』お台場など・・・
少し大宮を的確に描写した部分を引用したい。
巨大ターミナル駅のコンコースには、まるで渋谷や新宿のいいところだけをピックアップしたように、「そごう」「高島屋」「ルミネ」「丸井」などのデパートの看板が並び、どの店舗にも「GAP」「ゴディバ」「ロクシタン」などの有名ブランドが入っている。


上記からもわかるように本作では東京からはそんな遠くないのであるが、やはり地方色が抜けきらない大宮を描いている。
主人公で鉄筋工の隼人は九州から出てきたのであるが、東北訛りの人々に囲まれた職場になじめずに週末は東京のライブハウスで過ごす。
彼が装着する金属製の貞操帯って本作においては“裏のシンボル"である。
装着し出してから誰もがきづいてくれない点はきっと若者の“焦燥感”や“倦怠感”の象徴と言えそうだ。

もうひとりの主人公、設計士の犬飼も夫婦生活がうまくいかず“空虚”な毎日を送っている。

二人の接点は大宮のシンボルであり本作の“表のシンボル”であるO‐miya スパイラルの設計者と工事側の鉄筋工である。
前半部分で同じ電車に乗り合わせるシーンがあったような気がするが、最後まで言葉を交わすことはない。

ラスト付近で起こる事故により吉田さんは読者に危機感を持つことを訴えている。
そう言った意味合いにおいては“読者(というか現代人)が日常に帰る時に心に留めておかなければならない大切なものを提供してくれた”と言えそうだ。


吉田さんの作品って突然終ってしまうことが多い。
作品によってはあっけないなあと思うこともある。
しかしながら読後感は意外と心地よい。
“言外の意味をくみとる”という言葉があるが、まさに吉田修一さんの小説を読んだあとにピッタシな言葉だ。

余韻を残してくれている本作は読者に物語の収拾を委ねたのだと思っている。
明日からは自分の不器用さを少しでも解消したいものだ。

明日からは浮き足立って生きてはならない!
大きな教訓を得て本を閉じた事となった・・・
評価8点   
2004年70冊目 (新作50冊目)



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