『邂逅の森』 熊谷達也 文藝春秋 - 2004年07月16日(金)
史上初の直木賞&山本周五郎賞同時受賞作品である。 時代は大正時代。東北地方の寒村でマタギ(狩猟)を生業としている富治が主人公。 地主の娘、文枝と身分違いの恋をしたために村を追われその後転々とする人生であるがその運命に逆らえずにいながらも自分で人生を切り開いて行った過程を見事に描いた作品である。 日露戦争から昭和初期にかけて描いているが“毛皮需要”によって庶民の生活がが翻弄されている点が特に印象に残った。 われわれの祖先って本当に大変だったのだ。 本作を読めば真っ先に感じ取れる率直な気持ちである。 何よりも前半の文枝との恋愛シーン、あるいは後半の夫婦となってのイクとの葛藤シーンが良い。 もちろん熊との決闘シーンも良い。 思わずコブシを握り締めて読書している自分がいた(笑) 女性が入り込めないマタギの世界を自然描写を巧みに用いて読者を釘付けにしてくれる。 前者は女性の素晴らしさ・後者は男性の勇ましさを読者に余す所なく見せ付けてくれた。 主人公の富治は幸せものだ。必ずしも世間一般的には恵まれている人生とは言えないが陰で支えてくれる人が素晴らしい。 女だけじゃない。生涯の友と言うか弟分小太郎の存在も物語の中で重要な役割を演じる。 何と言っても姉であるイクを引き合わせたのだから・・・ 個人的にはいちばん本作を読んで力づけられるのは、イクの男性顔負けの力強い生き様であろう。 読者が見逃してならないのは“イクは主人公富治よりもっと波乱万丈な人生を過ごしつつも、誰よりも心を捧げる生き方を成就させたのは彼女だった”に違いない点である。 女性読者の感想を是非聞きたいなあと思ったりする。 読み終えて現代に生きる私たちと比べてみた。 確かに本当に不況が長びいて苦しい。 でも本作における厳しい社会(世界)よりはずっとましなはずだ。 クライマックスでのクマとの決闘に打ち勝った精神力は待ちわびるイクへの愛情のあらわれに他ならない。 本作を読み終えて普段些細なことを思い悩む自分に叱責したい衝動に駆られた。 少しは自分自身を顧みるいい機会としたいなと思う。 本作は男と女の本来の“生々しさ”を存分に描写した感動の大傑作である。 本当に素晴らしいと思える点は“まるでノンフィクション、いや伝記を読んでいるような感覚で読める点である。” ただ、普段あんまり読書をされない方にはオススメし難いのは残念である。 そういう方には同時受賞された奥田英朗さんの『空中ブランコ』を是非オススメしたい。 まさに“2段構え”の直木賞発表であった。 時代は熊谷氏の登場を待ってたのかもしれない。 直木賞発表がもたらせてくれた読者との“一期一会”の機会である。 “これほど読み応えのある作品って次にいつめぐり合えるだろうか?” これから読まれる方も是非本作を堪能されることを願ってやまない。 評価10点 超オススメ 2004年67冊目 (新作49冊目) ...
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