『自転車少年記』 竹内真 新潮社 - 2004年07月12日(月) 《bk1へ》 誰しも子供のときに自転車に乗れた時の感動ってひとしおである。 大人になってみて、それは親子の一大イベントということがわかる。 自分の子供が自転車に乗れた時って、ひとりで歩けるようになった時に次いで二番目の大きな成長の節目とも言えそうだ。 本作は昇平という四歳の男の子が自転車に乗ってというか練習中に坂道を下って止まりきれずに同じ年の草太の家に突入し、そこから永遠の友情で結ばれる二人の少年(始めは四歳だが)の成長記である。 物語は四歳から三十歳ぐらいまでを描いている。 主役二人以外の脇を固める人(たち伸男・奏・朝美など)も自分の進むべき道を歩んでいる。 この物語に出てくる人物って“ピュアなハートの持ち主”ばかりである。 とりわけ奏の存在って読者に強烈に潔い生き方を提起してくれた。 ラストで八海ラリーに突如参加するシーンでのセリフが脳裡に焼き付いて離れない。 『付き合ってるとか結婚するとか、そういうことだけが答えじゃないと思うよ』 竹内真の作品を読むと世界の広がりを体験できる。 読者が学び取れるのは何度もくじけたり失敗しても、希望を持って生きれば道は開けるということ。 本作での自転車って本当に“熱き友情”への強き絆となっている。 二十歳ぐらいの方が読まれたら明日への道しるべとなってるだろうし、三十歳以上の方が読まれたら若かりし頃の自分と照らし合わせて楽しめるだろう。 テーマが身近だから本当にわかりやすい。 自転車って気候のいい時にちょっと乗るのには爽快だが、長距離や暑い時、あるいはアップダウンのきつい道を走る時はまるで人生のように苦しい。 ラスト近くで29歳になって1児の父親となった昇平が息子の北斗に自転車を教えてる時に過去を回想するシーンが印象的だ。 自転車に乗れたことで見えた景色や、出会えた人々の顔―そんな記憶のかたまりが、頭の中で渦をまいている。懸命に走ろうとしている北斗の姿に、いくつもの思い出がよみがえってくる。 しかしながら苦しいとわかっていても八海ラリーに参加したいなあと思われた方は、本作を読んで心が豊かになった証拠だと思う。 本作は読者が日頃忘れかけている大切なものを思い起こさせてくれる作品である。 竹内さんに感謝したい気持ちでいっぱいである。 評価9点 オススメ 2004年66冊目 (新作48冊目) ...
|
|