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『ヒート アイランド』 垣根涼介 文春文庫 - 2004年06月20日(日)

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垣根涼介が描くと悪者にも親近感が芽生えるのかもしれない。

主人公は渋谷を仕切るストリートギャングのアキカオル
ふたりの生い立ちなんかを比較して読めばより一層入り込めるんじゃないかな。
窃盗グループの桃井も含めてこのあたりのエピソード作りは巧妙である。

後半の息もつかせぬ展開はハラハラドキドキ感を味わえる事間違いなし。
ストリートギャングチーム(アキ他)と窃盗チーム(柿沢&桃井)両方に肩入れして読んでしまうから困ったものだ(苦笑)

文庫解説の大沢在昌さんが書かれてるようにやはり物足りないのは、女性(主人公と恋仲になるという意味合いの)の登場がほとんど皆無状態だということ。
そのあたりは氏の超大作『ワイルド・ソウル』で解消はされたのであるが、読者って贅沢なもので遡って読んでみても期待しちゃうものだ。

あと付け加えておきたいのは、本作はいわゆる“ハードボイルド”作品なんであるが、一般的なイメージ(私たちが固定観念を持っているという意味での)ハードボイルド作品ではないような気がする。
主人公は一応アキなのだが、前述の通り窃盗チームに対してもかなり自然と親近感を持って読み進めることが出来るから不思議だ。

そのあたりは例えばアキやカオルの地味な生活(たとえば食生活や金銭管理面など)に今の時代の閉塞感というか危機感が如実に現れているのが読者も理解出来るかも知れないなと思う。
そう言った意味合いにおいては多少なりとも“バブル経済”崩壊に対する挑戦的(反省的なと言った方が妥当かな)な意味合いも含めて読むべきかもしれない。
バブル経済のもたらしたツケは莫大なものだが、我々小説を楽しむ人間にとったら垣根さんがもたらしてくれる良質のエンターテイメント作品に酔いしれることが出来るのは少なくとも“贖罪”だと認識すべきかもしれない。



アキの物語はまだ序章みたいである。
本作で我々読者は“冷静沈着であることの凄さ”と、“強い意志を持つ事の尊さ”とを学び取った。
姉妹編である最新刊『ギャングスター・レッスン』、続いて刊行予定の『サウダージ』でいかにアキが成長して行くのか暖かい目で見守って行きたいなあと思う。

きっと今後のアキの成長が垣根氏の成長の大きなバロメーターとなるのであろう。

ファンの誰もが大いなる成長を期待している・・・

評価8点  
2004年60冊目 (旧作・再読作品15冊目)  




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