『空中ブランコ』 奥田英朗 文藝春秋 - 2004年06月10日(木) 《bk1へ》 著者“自著を語る”はこちら “満を持して刊行”ってこの作品のことなんだろう。 読者がワクワクして本を手にとる。 きっと出版界の理想であるにちがいない。 それもこれも“スーパーキャラ”伊良部大先生のおかげだ。 前作『イン・ザ・プール』で初登場してファンの度肝を抜かせた伊良部先生。ますますパワーアップして再登場です。 もちろん男性ファンお待ちかねの“Fカップ看護婦”のマユミちゃんも健在。 一気に読めること間違いなし。 ただし電車の中では読まないで下さい。 あなたが伊良部先生のように思われてしまうから(笑) 前作と比べて患者の悩みが“ナーバス”な悩みが多くなったような気がする。 というか、前作は奇人・変人な患者が多くて読後は伊良部先生の方がまともだなあと思ったもので滑稽さだけが目についていたきらいがあったような気がするのだが、本作は職業こそ違えども読者が日常同じような体験をすることが出来るレベルの悩みが各編の主流となっている点は見逃せない。 いわば患者が“読者の分身”といえよう。 だから、自然と読書にも熱が入るし応援してしまう。 例えて言えば、前作はプロ野球を自宅でテレビ観戦、本作は球場で観戦って感じである。 通常、続編ってトーンダウンすることが大半だと思うが、本作は明らかにレベルアップされてるように感じられる。 “直木賞受賞間近”と言って良さそうだな。 本編に出てくる5人の患者は以下の通りである。 相方を信用出来なくなった空中ブランコのり、先端恐怖症のヤクザ、学部長(養父)のカツラを剥(は)ぎたい衝動に苦しむ大学病院の精神科医、突然コントロールが悪くなり一塁に送球できなくなったプロ野球のレギュラー三塁手、小説が書けなくなった女流作家・・・ どれもこれもシリアスな悩みを“伊良部キャラ”で癒し→治癒してくれる点は見事のひと言。 とりわけ最後の「女流作家」は伊良部先生のいつものハチャメチャぶりはもちろんのこと、話の内容としてかなり辛辣で一読に値する。 やはり本が1冊でも多く売れて欲しいという切なる奥田さんの願いが込められている点は読者の胸に深く刻まれたんじゃないかな。 あと面白いエピソードとして伊良部先生の大学生時代のエピソードが出てきてこれも微笑ましく感じちゃうから大してものだ。 きっと伊良部先生自体が読者に幅広く受け入れられた事の証しであろう。 他のどの作家のシリーズ作品よりも“再々登場”を願ってる読者が多いと断言して良さそうですね(笑)読者が伊良部先生によって普段心にこもってることが解決された気分になるから凄いよね。 未読の方は是非手にとって欲しい1冊です。別に本作を先に読まれてもなんら問題ないということは付け加えておきたい。 評価9点。オススメ 2004年55冊目 (新作40冊目) ...
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