![]() |
『臨場』 横山秀夫 光文社 - 2004年04月24日(土) 《bk1へ》 横山秀夫さんの最新刊は著者お得意の連作短編集となっている。 本作にて登場する“終身検視官”の異名を持つ倉石はとっても個性的で有能である。 彼の見立ての鋭さはまるで“死者が生き返った”の如くである。 とっても評価の分かれる作品だと思う。 連作短編集ならではの1篇1篇の話の展開はミステリー度も高くてさすがに読ませてくれるのであるが(特に「餞」は泣ける話です)、少し物足りなく感じた面はやはり他作と比べて主人公の倉石の“心の葛藤”や“正義感”の描写が稀薄な点であろうか。 もっと組織内での軋轢等の描写を望む(あることはあるのですが)には主人公の年齢が高すぎたのかな。 ただ、後半の悲哀感あふれる展開には拍手を送りたいと思う。 しっとりと読ませてくれる点においては、横山さんの作品の中では突出しているかもしれませんね。 そこで考えたいのは横山作品の魅力についてである。 個人的には横山さんの小説の特徴というか魅力は“力強い文章と胸がすく思いのする会話でもってグイグイ読者を引っ張り込んでくれる点”だと思う。 その中でもとりわけ、主人公自身の心の葛藤が読者に大いなる共感をもたらせてくれるのであろう。 しかしながら本作においては、どの篇においても主人公の倉石は脇役的な感は否めず、その強烈な個性を生かし切っていないような気がした。 もっと主人公が追いつめられたりするシーンを期待してた読者も多いのではないだろうか・・・ 並の新人なら“力作”という言葉が当てはまるのであろうが、“その活躍はとどまるところを知らない(著者紹介に書いてます)”横山さんとしたらやや読後のインパクトの薄い作品となってしまったような気がする。 読者の期待が大きいだけに人気作家も大変である。 連作短編集としては頂点を極めた感が強い『第三の時効』を超える作品を胸をふくらませて待ちたいと思う。 評価7点。 2004年40冊目 (新作28冊目) ...
|
![]() |
![]() |