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「天国はまだ遠く」 瀬尾まいこ 小説新潮4月号掲載 - 2004年03月21日(日)

本好きにとって“一心不乱”に読書に耽る時間って本当に幸せである。
それは瀬尾まいこが読者を“瀬尾ワールド”にエスコートしてくれるからにほかならない。

瀬尾まいこの小説に“トリック”という変化球はいらない。
なぜなら、直球勝負で十分に読者を魅了させることが出来るからである。

本作においては“自殺志願”の23才のOL千鶴が主人公である。
冒頭は《立ち読み》で読むことが出来る。

彼女の小説の一番の読ませどころは“人とのふれあい”である。
本作も自殺しようと思ってさびれた田舎の民宿に滞在した約3週間の間に主人公は自分の人生を見つめ直す。
本作においても、『図書館の神様』垣内君のような存在の男性が登場する。
民宿の主、田村さんだ。
彼の心の広さと目に見えない気配りが、千鶴の心の中を清めてくれたのは間違いない。

でも、恋愛模様を模索するのもどうかなあと思うが、少し結末を変えて欲しかったなあと思ったりするのは瀬尾作品に魅了された証なのかなあ・・・
女性が読まれたら最後の別れのシーンの田村さんの態度、余計に惚れちゃうのかも知れません(笑)
読まれた方しかわからないでしょうが、きっとちっぽけなマッチ箱は田村さんの最大の愛情表現だったのでしょうね。

“心の機微”ってむずかしいですね。

瀬尾さんの作品を読むといつもそう感じます。
ページをめくりながら、一緒に悩み、考え、共感し・・・そして本を閉じる

正直、本作は読み終わると少し寂しい気分になる。
それはしばらく瀬尾さんの作品を読めないという素直な気持ちの表れかもしれない。
“主人公以上に読者の心も浄化される”から瀬尾まいこのファンって幸せである。

『海も山も木も日の出も、みんな田村さんが見せてくれた。おいしい食事も健やかな眠りも田村さんを通して知った。魚や鶏を手にすることも、讃美歌を歌うことも、絵を描くことも、きっと田村さんが教えてくれた。そう思うと、胸が苦しくなった。
ここで生きていけたら、どんなにいいだろう。きっと、後少し、後1ヶ月だけでもここで暮らしたら、私はもっと確実に田村さんのことを好きになったはずだ。田村さんと一緒にいたいと、もっと強く思えたにちがいない。・・・・』


評価9点。オススメ


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