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『走って、負けて、愛されて ハルウララ物語』 重松清 平凡社 - 2004年01月29日(木)

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かつてバブル経済絶頂の頃、“オグリキャップ”という馬が地方競馬から中央競馬に進出して一世を風靡したことは記憶に新しい。
時代が変わり不況真っ只中の近年、全国一経営難に陥っているといわれている高知競馬において負け続けている馬、“ハルウララ”が救世主としてクローズアップされたのである。

まるで今の時代を反映したようなノンフィクションである。
読者はいやおうなしに不況に喘ぐ、自分自身を“ハルウララ”号に投影する。
ハルウララ号は読者にまるで“夢をあきらめないで! 私も頑張ってるから!”と教えてくれる。
ハルウララ号は決して走らされてるのじゃない。
読者の願いを込めて走っているのである。
それだけ読者の願いも切ない。
そう、ほとんどの人がバブルの頃よりも一所懸命に生きているのであるから・・・

本書は昨年末ちょうど99連敗から100連敗に差し掛かる頃に執筆された。
競馬場に取り巻くいろんな人々(調教師・厩務員・ファンの方々・実況アナウンサー・新聞記者・競馬組合の方など)に重松さんが取材をして、持ち前の暖かい眼差しで綴った言葉の数々が心地よく受け入れられる。

正直、ハルウララ号を走らせることに関しては賛否両論あってもおかしくないと思うが、ここではあえて触れたくない。
それよりも私たちが一番忘れてる大事なものを想い起こさせてくれた点は純粋な気持ちで感謝したいと思う。

本文は、重松さんの文章とハルウララ号の写真と約半分づつで構成されている。
見事なマッチングだと思う。

『ハルウララは今日も負けた。だけど、今日も一所懸命に走ったから、明日がある。ハッピーエンドとは、幸せな「結末」だけを意味するものではないんだ。明日は幸せになれるかもしれないという「希望」をたたえた、ひとまずのピリオド。それをぼくはハッピーエンドと呼ぶ。』

重松さんのハルウララ号への声援が、我々読者への声援でもあると信じて本を閉じれたら、“少し未来に希望が見えた”と言えるんじゃないだろうかと思う。
読者にとって何よりの大きな収穫である。

評価8点。    
2004年10冊目 (新作8冊目)


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