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『いっぽん桜』 山本一力 新潮社 - 2003年12月18日(木)

『あかね空』で直木賞を受賞した作者ですが、短篇もなかなか読ませてくれます。
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ジャンル的には市井ものの人情小説となるのでしょうか。
山本さんの作品は仕事に疲れて帰って来て読む方には恰好の小説である。
そう、普段お風呂に入って疲れを癒すような読後感が味わえる。

本作は4篇からなる短編集であるが、すべて花の名前が題名につけられている点も見逃せない。
花が出てくるので派手な印象があるが、とんでもない。
それぞれの人生の願いを切実に花に託しているのである。

表題作の「いっぽん桜」がとにかく秀逸。
奉公人を斡旋する口入屋の頭取番頭を務める54歳の長兵衛はある日、主人から身を引くように言い渡される。
暮れには娘の祝言が決っているのだが・・・
現代に置き換えれば“リストラ”を扱っている。
ただ、現代と違う点は“全く予期しなかった”点である。
現代社会で日常茶飯事に起こってることだから読者も他人事ではない。
もちろん、娘への愛情を示した庭に植えているいっぽん桜がより物語に深みを持たせている点はいうまでもない。
まさに哀愁感漂う作品である。
残り3篇も佳作ぞろいである。

山本さんの作品を読むと、人生の苦難を乗り越えて行くには、当人のみならずまわり(主に家族)への心配りの重要性を再認識させてくれる。心憎いほどに・・・
もちろん歴史小説のようにヒーローは出てこない。
いわば、登場人物が読者の分身だ
ゆえに読者との距離が近い点は身につまされる。
あと、現代に置き換えれば“人づき合いの難しさと言うか重要性”を再認識させていただけた。
作者に感謝したい気持ちでいっぱいだ。

きっと本作は山本さんの文章のように“力強く”読者にも生きてほしいと願って書かれた作品だと思う。
不況の時代にぴったりの小説だと心の底から叫びたい。

評価8点。


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