『雷桜』 宇江佐真理 角川書店 - 2003年08月26日(火) 宇江佐さん著作リストは《こちら》 本作は庄屋の娘として生まれたものの、1歳の誕生日の直前に藩の陰謀によって“かどわかし”にあって波乱の生活を過ごしその後帰郷、運命に翻弄されながらも信念を貫いたヒロインお遊の悲しくも切ない話である。 従来の宇江佐さんの江戸下町を舞台とした人情話に慣れられてる方は若干戸惑うかもしれない。 でも長編小説の魅力を存分に味わえる佳作だと言えると思う。 本作は通常の“身分違いの恋”という単純な話ではない。 実らなかった恋であるが、ひとときだけでも幸せを燃焼つくした2人はきっと幸せであったと信じたい。 いや、“実らなくてよかった”恋と思いたいといった方が適切かな。 斉道が江戸に戻る前日、炭焼き小屋で肌を重ねた二人がその夕方、みんなの前に馬に乗って現れるシーン。本当に美しいです。 夏の終わりのいい想い出となりました。 信念を曲げずに生き抜いた“お遊”に拍手を送るとともに助三郎という宝物の幸せを祈らない読者はいない。 2人の愛情は助三郎によって受け継がれるから安心だ。 多少難を言えば、斉道がヒロインと比べて存在感が薄い点である。 お遊と知り合うまでの彼の“狂気”が気になって仕方なかった点は否定できない。 宇江佐さんはそうすることによって“お遊”の素晴らしさをより際立たせようとしたのだと思いますが・・・ ただ、助三郎の出生を産みの父親に話さずに身内の“胸の内”に仕舞っておいたストーリー展開は素晴らしいと思った。 それがかえって物語全体を“潔い”ものとしている。 あと印象的だったのはお遊が出てくるまでわずかな生存の可能性を信じて祈っている瀬田家の家族一同の懸命さが胸を打った。 本作は宇江佐さんの作品の中でひときわ“恋愛要素が強い”作品である。 女性が読まれたら特にインパクトが強いと確信してます。 是非この作品を読んで恋の切なさをあなたの“胸の内”に仕舞っておいて欲しいと思う。 評価8点。 ...
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