『深川澪通り木戸番小屋』 北原亞以子 講談社文庫 - 2003年08月21日(木) 久々に北原さんの作品を読んで見た。 慶次郎シリーズとともに彼女の代表作となっている“木戸番小屋シリーズ”の第1弾である。ちなみに現在第3弾まででている。 慶次郎シリーズより捕物的要素が少ない本作は典型的な“市井もの”の作品と言えよう。 《bk1へ》 《Amazonへ》 とっても心が暖まる作品である。 江戸深川を舞台として季節感の描き方も上手い。 澪通りにある木戸番小屋の笑兵衛、お捨夫婦が主人公だがどちらも木戸番小屋で働くイメージとはかけ離れた出来た人物で周りからの信望も厚い。 1篇1篇夫婦を通して登場人物が“癒されて行く過程が見事にせつなくこまやかに描かれ”ていて目が離せないのである。 何もない感じの2人の過去の傷を少しづつ小出しに表していくところも心憎い限りである。 苦労を重ねる事によって2人の現在があるのがよくわかる。 “一蓮托生”と言う言葉があるがまさにこの夫婦にピッタシの言葉といえそうです。 文章的には藤沢さんより“明晰な”感じがする。 北原さんが生粋の江戸っ子というのも影響してるのでしょうか。 全8篇どれもが素晴らしいのだが、個人的には表題作と「坂道の冬」がいいかな。 ちょっと後者から引用しますね。 『ねえ、どうしてお金持になったおちかちゃんが植木職人の銀次さんと一緒になるのは健気で、貧乏人のわたしが三桝屋の若旦那と一緒になるのは図々しいんですか』(坂道の冬より) 上記に対するお捨のアドバイスが凄く適切で印象的なんだけどこれは読んでのお楽しみと言う事としたい(笑) 読み進めていくうちに登場人物と同じようにお捨のふくよかな笑顔に心癒されることが出来れば幸いである。 理想の夫婦像として読まれても面白いのかもしれません。 時代物の女流で直木賞作家は北原さん以来出ていないらしいが、まさに直木賞作家の真の実力を見せつけられた気がする。 なお、本作は泉鏡花賞を受賞されていることをつけくわえておきたい。 ネット上でも地味なせいか(?)あまり読まれてないようだが、宇江佐真理さんの“髪結いシリーズ”のファンの方なんかに是非手にとってもらいたい作品である。 安心して読めるはずですよ。 そして“いかに人間らしく生きるか”を学び取れる作品であると確信してます。 評価9点。オススメ ...
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