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『幼な子われらに生まれ』(再読) 重松清 幻冬舎文庫 - 2003年07月18日(金)

私が重松さんのファンとなるのを決定付けた思い出の作品です。
“普通の人”の苦悩をこれでもかとリアルに描写している。
まるで重松さんの“魂の叫び”が聞こえてくるようだ。
そのくらい、主人公は常に“葛藤”している。
葛藤が強いゆえにアンジーさんに狂うのも男性読者なら理解できるところであろう。

特に印象深いのは沙織と会ってる時の喜びは文章上でも際立っている。
少し引用します。

“この子の体には私の血が半分流れている。沙織は私の娘だ。たとえ父親としての役割は果たせなくても、沙織が『パパ』と呼ぶのは世界中で私ただ一人だけで、世界が滅亡するときには、私は沙織を抱き締めていたい。”

3カ月に1回、年に4日会うと言うのを唯一の楽しみとしる姿が切なく感じる。
“残りの361日は偽善者である”という言葉がとっても生々しい。

沙織ちゃんも、凄くいい子で生みの親をパパと呼び、育ての親をお父さんと使い分けている所が儚げで意地らしい。
あと、沙織とのコントラストも見逃せない。同じ年の設定はもちろんのこと、お互いの“育ての親”に対する接し方の違いが甚だしいが、沢田(薫の実父)の登場で少し仕方ないかなあという気分にさせられた。

再読してみて、前妻の友佳と現在の妻の奈苗とを比べてみた。
初読の時はどうしても、主人公側(男性側)の視点からしか見てなかったが、今回は奈苗の頑張りも見逃せなかった。“バツイチ同士”のいろいろな問題を抱えながらも今後は何とか乗り越えていけそうな気がした。
それだけ、お似合いのカップルと言えそうだなあ、この2人は・・・
考え方の相違によって、前妻とは離婚に至ったわけだが重松さんの理想像は現在の妻の奈苗の方に近いんじゃないかなあと思う。
個人的には奈苗さん、出来た妻と言っていいんじゃなかろうかなあと痛感した。

この作品は“血のつながり”の重要性を謳っているのではない。
“人生悲観しないで前向いて生きようね”って言う事を謳っているんだと理解している。
生まれてきた“つばさくん”誰よりも幸せに育って欲しいと言うのは重松さんだけじゃなく、読者の強い願いです。
その願いがあるから切ない話だけど、明るい気持ちで本を閉じることが出来るのであろう。


評価10点。超オススメ作品




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