『あかね空』 山本一力 文藝春秋 - 2003年06月04日(水)
本作は現役の時代小説作家では乙川優三郎さんと人気・実力を二分しているといっても過言ではない著者の代表作と言われている作品で第126回直木賞受賞作品である。 受賞当時、同時ノミネートされた乙川さんが落選し山本さんが受賞されたので腑に落ちないと思ったものだが、本書を手にとってそれが杞憂だったことがわかった。 作風的には乙川さんが端正な文章で“武家もの”を得意としているのとは対照的に、著者の山本さんは力強い文章で“市井もの”を描いて熱く読者に訴えかける。 上方から江戸に出てきて豆腐やを開業した永吉とおふみ夫婦。味覚の違いにもめげずに商売は軌道に乗って行くのだが・・・ まず関西人として、主人公が関西弁(ここでは上方弁かな)なのが親しみやすい。 2部構成となっていているがこの構成も見事成功している。 第1部では子供が出来てから夫婦に少しづつ亀裂が入って行くのが辛くって仕方なかったけど第2部でその悩みも解消される。 親の死によってあとに残された子供たちがいかにそれぞれのわだかまりをなくして行くかを入念に書いている。 徐々にそれぞれの登場人物の思いが伝わってくる筋書きとなっていて、最終的に家族の絆を上手く描いている。 ひとりひとりの人物造型もきっちり出来ていて読みやすい。 特に妹の“おきみ”ちゃんがとっても健気な性格でいい。 あと、豆腐の値段や家賃等かなりリアルで臨場感を醸し出している点も見逃せない。 このあたりが他の作家と比べて描き方の秀でたところなのだろう。 小説を読む醍醐味のひとつに、普段日々の忙しさや現実の厳しさに追いやられた読者が当たり前のことなんだけど忘れがちになっている、生きて行く上でとっても大切なことを思い起こさせてくれる点があると思う。 本書なんか典型的なその例であって、本書を読まれて子供の幸せなくして親の幸せはないんだということを分からない読者っていないであろう。 きっと読者の脳裡に焼きつくのである。 とにかく、いつの時代も子供を思う親の気持ちは同じなんだなと再認識させてくれた点は作者に感謝したく思う。 仲の悪いようにも見えた永吉とおふみ夫婦が、子供たちのあいだのわだかまりが消えて結束できた事によって、理想の夫婦だったんだとわからせてくれたような気がした。 親が子供を思う気持ち、裏返せばこれは子供にとっても同じ事である。 なぜなら、長男“栄太郎”に腹が立ってた読者も最後にはきっと彼の気持ちもわかって本を閉じる事が出来るであろうから。 作者の筆力の高さを実感できた証拠であろう。 時代小説ってとっつきにくく感じられてる方が多いかもしれない。 確かに文章は現代物ほど早く読めない方もいらっしゃると思う。 ちなみに私もそうである。 しかしながら作者が伝えたいことは現代物となんら変わりない。 いや、むしろシンプルなのである。 そういう意味では、本作は時代小説というジャンルに留めずに“究極の家族小説”と捉えて読まれたらより楽しめることだろう。 心に隙間風が吹き始めていると少しでも感じている方是非手にとって下さい。 きっとあなたの心に熱き魂が戻ってくると確信しております。 評価9点。オススメ 2004年11月2日リライトしました。 ...
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