『深尾くれない』 宇江佐真理 新潮社 - 2003年05月19日(月) 宇江佐さんの最新作は実在の人物を題材とした長編となっていて、他の作品と一線を画する作品となっている。 1人の実在の人物を哀感を込めて描いていて、宇江佐さんにとっては新境地開拓の作品といえそうですが、ファンとしてはちょっと複雑な気分にさせられる作品と言えそうです。 この物語は歴史小説と割り切ってどう読めるかが評価のポイントとなるでしょうね。 短躯ゆえの反骨心から剣の道に邁進し、雖井蛙流を興した実在の鳥取藩士、深尾角馬。 剣の道以外に“牡丹を育てる”ことを生きがいとした角馬。彼の家の庭に咲く“深尾くれない”とってもきれいなのですが・・・ この生きがいが彼の人生を変えることとなるとは・・・ 彼は妻を斬り、二度めの妻も斬るのであった。 とにかく重苦しくかつ切ない作品である。 第1章(星斬の章)と第2章(落露の章)に分かれるが、特に第1章は重苦しい。 第1章はまるで他の人の作品を読んでいるみたいである。 ちょっと剣豪の専門用語の部分が多すぎるかなというのが正直な感想で読みづらい。 第2章に入っておてんばな娘ふきが登場、ちょっと雰囲気が変わっていつもの宇江佐さんらしくなります。 母親のかのは病死とばかり思っていたふきが徐々に過去を分かっていく過程が読ませてくれます。 角馬に関しても変化が見られます。 頑固さの象徴の意味合いの“武士の面目”から“娘を通しての潔さ”があらわれて来て、人間としての情熱を感じる部分も出て来ます。 彼を通していつの時代においても親子の絆の深さは変わらないということを教えてくれますが、現代人にとってやはり主人公の角馬、許せない部分が多いんじゃないかと思ったりしました。 読み終えてやはり二度めの妻(ふきの母親)の“かの”が可哀想な気分がいちばん強かったですね。 でも角馬にしたら、第2章は人(娘)の為に斬ったのでしょうねきっと・・・ 物語の結末的には歴史小説だと思って割り切って本を閉じましたが、とっても力強い小説である事を付け加えておきたく思います。 宇江佐さんには江戸を舞台とした作品を書いて欲しい。 それほど彼女には江戸がピッタシだ。 宇江佐さん著作リストは《こちら》 評価8点 ...
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