Kyoto Sanga Sketch Book
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2006年03月19日(日) |
東南アジアの片隅で〜50 years later |
この国ではスポーツでは何が一番人気があるの? 彼は「やっぱりサッカーだよ」と答えた。 でもワールドカップ参加なんてまだまだ、と笑う。 この国にそんな余裕はないと。 「僕たちの国は日本より50年遅れているから」と。同じだけの時間があれば、と。 彼らの内戦が終ってまだ10年しかたっていない。
世界中から来た観光客たちは、巡礼者の群のように静かだった。 巨大な石の街、建造物にどんどん吸い込まれていく。
古代遺跡の庭、石畳の上を飛ぶ緑の蝶。 雨上がりの密林に浮かび上がる、巨大な数十個の菩薩の顔。 湿った大気に甘く溶けるような優美で繊細な彫刻群。 宇宙を模した千数百年前の街の廃墟。 空を見上げると、天に向かう尖塔の女神の姿の所で時間が止まっている。 石の塔の窓では、短パン姿の西洋人が黄色い僧侶と何か語らっている。
当時、この国の王は東南アジア全土を支配した。 王は国内に数百の無料診療所を設置した。 しかし今は多くの人々が医療サービスにかかれず亡くなっている。 農作業、土木工事で目にした光景は、 周りの東南アジア諸国よりすべてがかなり遅れている。 「男性の平均死亡年齢は40歳」 この国を取り巻く内外の政治経済の環境も、まだ少し複雑すぎる。
しかし、彼らの表情にはそんな暗さはなく、 明るい光線の中で人々は一本の手鋤で田を耕し、 男女を問わず手作業で街のあらゆる所で道路を創っている。
この国は子供たちが多い。どこを見ても子供だらけ。
5歳から10歳ぐらいの子供たちが「1ダラー!1ダラー!」と叫びながら、 小さい手に売り物の絵葉書や手作りのおもちゃなどを携えて群がってくる。 「ちゃんと学校には行ってるの?」 「もちろん」 埃で汚れたシャツのこの子たちも、ほぼ、 時間が来れば制服に着替えて、小学校に登校するらしい。 (彼らの学校は二部制。だからそれ以外の時間はこうやって働いているそう)
でも、こんなに子供たちが多くても、 サッカーをしている少年少女の姿なんて見当たらない。 湿った大気に、鼻につく発酵したような甘酸っぱい土の匂い。 濁った湖の上で、子供たちが洗い桶にのって遊んでいる。 痩せた牛に草を食べさせながら、野犬たちと遊んでいる。
彼らは自由に遊びを創造する。だから遊び専用の道具なんていらない。 サッカーボールなんていらない世界の気もする。
雨季の終わり。まだ濡れた空気。 この街は、土着と外来の近代がぶつかり合ったり溶け合ったりしている。
最後の日。少し早めに起きた。この国は7時には仕事も学校も始まる。 向かいに小学校がある。 輝くように真っ白いシャツに着替えたこの地の子供たちが、 徒歩で、明らかに大き過ぎる大人用自転車で、 校門に吸い込まれていく。 この中にはあの時の売り子の子供達も混じっているのだろうか。
校庭が見えた。 そこでは午前の部の子供たちがサッカーをしていた。
50年もかかるはずがない。
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