2006年02月03日(金) |
アンジェリカ・イン・ナイトメア |
世界の終わりという名の地獄で見た景色はまだ私の目に焼きついていた、しかし正確には私の目はそれを見ていた訳ではなかった、それは受け継がれた記憶の中の出来事であり、私には無関係だとも言えることなのにも関わらず、それでも私の目にはその景色がしっかりと刻み込まれている、考えることを知ってしまった生き物の全てと世界の終焉、そしてそれに続く再生の光、ほんの一瞬の事象にすぎない全ての終わり。
目が覚めるとそこは自分の部屋だった。自分の布団、枕、頭の後ろでけたたましく鳴るアラームの電子音、天井に下がる電灯の紐、日常に存在するありとあらゆるものが揃っている、ああ、私は夢を見ていたのだ、とそこで思った。そしてそれはおそらく真実であった。最近見る夢は夢というよりも記憶の回想に近くて少し疲れるものだ、もしも誰かがそれを暗示と呼ぶのなら落胆を隠せない、だがしかし、迫り来るその瞬間の予感を私は持っていた、それも多少縁取られたものとして。
(そう遠くはない事実としての、あのとき、がやってくる、私にも)
それはとてもとても、恐ろしいことである、 そして今か今かと、私はその日を待っている。
「失礼致します、清城隊長、ご起床していらっしゃいますでしょうか」
ノックもなしに響く声、思わず障子に顔を向ける、誰だか分かるのは朝日の作り出す陰のせいではないと思った。それでもこうやって聞き返すのは、立場と、秘密と、ほんの少しの悪戯のようなものだ。
「どちらさま」 「はっ、三番隊副隊長吉良イヅルにございます!」
たった一枚の障子越しに全てを見る、彼の動き、声、心情まで読み取れそうなのは私のせいではない、むしろ、彼のせいだ。彼は、向こう側で何を見取って何を思っているのだろう、私は、彼を見て、彼を思っている、このままこの隔たりをなくしてしまったらきっと私は太陽の光をまとった彼に両目を奪われてしまう、だって彼は太陽のこどもなのだから。頬骨が自然と上がるのを無視しながら、そんなことを思った。
「そう、どうぞ」
清々しい朝の悪夢と救済の光がやってくる。
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