さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2003年01月21日(火) にゃん氏物語 末摘花10

光にゃん氏訳 源氏物語 末摘花10

源氏がもしかしてよく見れば好きになるかもしれない 手で触った感触に
おかしな所があったからか この人の顔を一度だけでも見たいと思うが
はっきり分かってしまうのも不安だった それで誰もくると思わない深夜に
まだなっていないが夜 源氏はそっと行って格子の間から覗いて見た

だけど 姫君はそこから見えるわけはなかった 几帳はとても古いが
昔のまま場所を変えず ちゃんとかかっている どこからか覗けないかと
源氏は縁側をうろうろしたが隅の部屋の女房四人五人だけが見えた
お膳 食器など中国製だが古く汚くなっている 姫君の部屋からさげた物
を置き晩御飯にしているのであった

皆寒そうな格好をしている 白い着物で何も言いようがないほど煤けて
汚い着物の上に 真面目らしく正装の腰から下に衣をつけている
そのうえ 古風に髪を櫛で後ろに押さえた額つきは内教坊:舞姫に女楽
踏歌を教える所 や 内侍所にこんな人がいるなあと思って可笑しかった
人に仕える女房がこんな格好をしているとは源氏は夢にも思ってなかった

「ああ寒い年です 長生きはこんな冬も経験するのです」と泣く者もいる
「宮様が生きていた頃 なぜ辛いところと思ったのだろう その時より
さらにひどいのに このように私たちは 我慢してご奉公できる」
その女は両袖をばたばと 今にも飛んでいきそうに震えている
生活について露骨に体裁の悪い話ばかりで聞いてて恥ずかしいので
源氏はそこから立ち去り 今きたように格子を叩いた

「さあ さあ」と言って灯を向けて明るくして格子を上げ 源氏を迎えた
あの侍従は斎院の女房も勤めていたのでこのごろは来ていない それで
全て調子はずれの上に なおさら野暮ったい感じになっている
先ほど辛いと言っていた雪が大降りになってきた 険しい空の下を荒れた
風が吹いて 灯が消えた所も付け直そうとする者はいなかった

某院の物の怪が出た夜を源氏は思い出す 荒れ果てた様子は ひけを
とらない 邸が狭く人が多いのでまだましに思うが すごい夜で 不安で
寝付けなかった こんな時はかえって女への愛が深まるのだが 心を
惹きつけない 何も張り合いを持たない相手に源氏は失望を覚えた

ようやく夜が明けていきそうで 源氏は自分で格子を上げて 前の庭の
雪景色を見た 人の足跡も無く 遠くまで白く寂しく雪が続いていた
今ここから出ていってしまうのも可哀想に思うので 
『夜明けの風情のある空の色でも一緒に眺めましょう いつまでも
よそよそしくては 困りますよ』 と源氏は言った


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