ゼロの視点
DiaryINDEXpastwill


2004年07月13日(火) 物乞い

 午後7時近く、私はアンヴァリッドの駅近くを、家路につくために急ぎ足で歩いていた。

 すると、突然とある人に呼び止められる。つい、返事をしてしまった私。振り返ると、アジア系の高齢男性が立っていた。道でも尋ねるつもりなのか?、と思って、彼の言うことをちょっと聞いてみようと思うようなアクションと取ると、彼はベラベラと自己紹介をし始めた。

 感覚で知っているので、これはナンパではない(笑)。とはいえ、どんな理由で急ぎ足の私を呼び止めたのかを知りたくなってきた私は、彼の訳のワカラン話に耳を傾けつづけてみた。

 しかし、私を呼び止めたからには、それなりの“オチ”が欲しいものだ。じゃないと、いじめるぞ、じじいっ。なんて、ことは思っても顔に出さず。

 彼は、ジャケットの左襟部分にたくさんつけた勲章もどきを私に見せてくる。彼曰く、フランス軍に所属していたとのこと。そして、現在はニースに住んでいて、29年ぶりにパリにやってきたという。なぜなら、明日、タイからやってくる娘たちや妻の迎えをしなければならないからだ、という。

 そんな彼自身はラオス人で、74才とのこと。29年ぶりにやってきたパリでは、仕事に急ぐ人たちに駅のホームで押されて、ひっくり返り、その際に手首を怪我してしまったといい、丁寧に手当てされ包帯に巻かれた彼の腕を私に見せてくる。

 彼に話し掛けられた瞬間から気付いていたことだが、かなり彼のフランス語のレベルは低い。さりげなく彼のフランス語レベルを計るために、彼が話したことを専門用語だの、文学的用語だのに置き換えて、繰り返してみると、彼は全然それらの言葉がわからない。

 かなり長くフランス軍にいたという彼だったが、そんなに長くいてもこのボキャブラリーという時点で、そうとう怪しい。また、胸にぶら下がっている勲章もどきも、相当ヤバイ、というかインチキそのもの。

 怪我した腕の手当ての仕方は、まさしくプロによるものだったので、さりげなく、“さっき駅で怪我したと言い張る彼”に、どこで手当てしてもらったのだ?、と聞くと、警察でやってもらったという。

 この時点で、大爆笑しそうになった私だが、彼がどんなオチを持ってくるかに興味があったので、“いい警察に連れて行ってもらってよかったですねぇ”と相槌を打っておく。

 私の出身はどこか?、というので、今回は嘘もつかず日本人だと答えておく。すると、このオヤジは調子にのって、“僕たちは同士だ”などと言ってくる。“なんで同士になるの?”と聞き返すと、アジア人だからだ、とのこと。なんのこっちゃ。

 で、いよいよ本題。結構オヤジの話にも飽きてきたので、そろそろ手の内を知りたくなってきたところの私だった。オヤジ曰く、義理の弟がオルレアンにいるという。で、明日妻と娘たちを空港へ迎えにいったら、その足でオルレアンに向かいたいらしい。で、その際の交通費が足りないという。

 ほーら、やっと本当の姿をみせてきたな、じじいっ。

 “いくら必要なの?”と聞くと、じじいは“8ユーロ79サンチーム”というわけのわからん厳密さで答えてくる。

 そうか・・・・・、こんなつまらん額で、つまらんでっち上げ話に突き合わされていたというわけか、わしは・・・・、と思うと、無償に私自身でじじいも考えもしなかったオチをつけて、この無駄にした時間にピリオドを打ちたくなってきた。

 なので、

私“そうですか、たった8ユーロちょっとがないために、大変な思いをしてらっしゃるのですね・・・。大変ですねぇ、本当に・・・・”

じじい“そうなんだよ、同士としてこの金を都合してくれないか?。”

私“私の母国には、72歳になる母が1人で暮らしております。もしかしたらアルツハイマーかもしれません。そして、夫はリストラ寸前で鬱病です。で、私はフランスと日本の行き来のために、これまでに資産を食いつぶしてきています。そごんじの通り、日本は世界一物価が高い・・・・。医療費もバカにならない。このままいくと、すべてが共倒れになって、近いうちに私は首をつるかもしれません”

じじい“・・・・・・・”

私“なので、たった100ユーロでもあれば、それでも足しになるのですが、用立ててくれませんか、同士よっ!!”

とじじいに尋ねてみた。すると、どんどん逃げ腰になっていくじじい。

じじい“100ユーロといわれても・・・”

私“あなた、自分だけが不幸だと思ってませんか?。”

じじい“・・・・・”

私“目の前に自分よりもっと金を必要としている人間がいるかもしれないのに、途端に無口になるとは、随分失礼な人ですね・・・・。ああ、残念だ”

じじい“・・・・・”

私“アナタの話は充分聞いてあげたのに、今のあたなの態度はなんですっ!!。無責任もはななだしいっ!!”

というと、彼は逃げていった(笑)。

 ということで、無駄話をきかされた憂さ晴らしを即座にやって、気分壮快なゼロでした。

 

 


Zero |BBSHomePage

My追加