冬の思い出1

だーれのせいでもありゃしないーみんなあいつが悪いのさーでんでろでんでろりーん。

冬になると小学校の事を思い出す。
え?え?上の歌はなんだったんだって?なんでもねぇよ。小学校の時の思い出と共に当時志村けんが歌ってたのを思い出しただけだよ。


とにかく、冬には小学校の事を思い出すのだ。
冬の、ストーブの匂いと、あの先生の事を思い出すんだ。


小学校一年の時、私はどうしようもない生徒だった。
ま、今でもどうしようもないけどさ。
とにかく、忘れ物は日常茶飯事、宿題なんてまともにやった事なかった。
普通さ、小学校一年生とかって、教えて貰う事の一つ一つが新鮮で、楽しくって仕方ないじゃない。
ま、私も授業中は、指先までピンと伸ばして手を上げて、先生の「わかる人〜」という甘い言葉に自分が指名される事に、情熱をかけてたよ。
でも、その情熱も学校でだけ。
家帰ってからの宿題ってやつが嫌だったんだ。
私、小学校一年、二年と、ママが仕事行ってる間、幼馴染で初恋の君であるY君の家で預けられてたんだよね。
で、学校終わって、Y君ちいって、ママが迎えに来る6時ごろという短い時間、いっぱいいっぱいにY君と遊びたかったんだ。
だから、Y君と一緒に通ってた公文は休まないで行ってたけど、宿題はしなかったの。宿題やる時間があったらY君と遊びたかったから。
恋する乙女に宿題は障害だったんだよね。


で、そんな毎日が続いた冬のある日、先生に
「放課後ちょっと残るようにネ」
って言われたんだ。
もうその頃にはガスストーブが出されていて、生徒が誤って触って火傷しないよう、ストーブはまるで獰猛な動物みたいに檻に入れられてた。


私が放課後残るように言われたその日、ストーブの檻の上に、アルミホイルで包まれた謎の物体が乗せられていた。
生徒達が口々に、
「先生これなんですか?」
と聞いても、先生は、
「内緒。」
と笑うばかりで、生徒達はそのアルミホイルの中身を詮索するのに躍起になってた。
「やきいも?」
「内緒。」
先生は、頑なに秘密を押し通した。
その頃、先生に「秘密」があるなんて思ってもみなかった私達はちょっぴり衝撃を受けて、休み時間になるたび、ストーブを囲んでこの中身がなんなのか、議論を交わしあってた。


そして放課後。私は先生に言われたとおり、教室に残った。
誰もいなくなった教室は、ひどく広くて、心細かった。
先生は、
「リカちゃん、どうして忘れ物をするのか、宿題をやってこないのか、怒らないから言ってごらん?」
と、優しく問いかけた。
私は、怒らないから、とか言いながら、先生は怒ってるから私を放課後残したんだと思って、緊張してしまって、何も言えないでいた。
もともと何も言う事がないんだ。
Y君と遊びたいから、なんて、理由になるわけもないし、なったとしても怒られるだけだという事を、わかっていたように思う。
この頃の私は、どっちかと言うとおとなしく、すぐ泣いてはY君に守って貰うというような子供だったし、一人で、先生に対して何か意見すると言う勇気もなかった。
私が泣きそうな気分で黙っていると、先生は
「寒いわねぇ」
と言いながら、ストーブの所へ行き、例の秘密のアルミホイルを手に取った。
そして、私の所へ戻ってきて、
「秘密よ。」
と笑いながらアルミホイルを剥いた。


中から、焼きいもが出て来た。


先生は、それを二つに折ると、半分を私に手渡した。
「放課後、リカちゃんと食べようと思って、乗せておいたの。どうぞ。」
私は、さっきまでの、「怒られた」という緊張した状態から、急に優しくされて、緊張が緩んで、また泣きそうだったので、飲み下すのに苦労しながら、焼き芋を食べた。
先生は、それ以上、どうして私が宿題をやってこないのか聞かなかった。
ただ、帰りしなに、
「明日から、ちゃんとやってこようね」
と、言ったきりだった。


帰り道、私は、先生と秘密を共有した事が嬉しくて、ワクワクした気持ちでY君の家に帰った。先生と秘密を共有する事は、私にとって、とてもドラマチックなことだったんだ。
だけど、大好きなY君にも、ママにも、焼き芋の事は秘密にしていた。もちろん、他の生徒達にも。
その日から、私は、ちゃんと宿題をするようになった。


あの日の焼き芋の味は覚えていない。
泣きそうな気分だったから、味なんてわからなかった。
だけど、冬になるたび、あのガスストーブの匂いと、焼き芋をくれた先生の事を思い出しては、あの日と同じように、泣きそうな気分になるんだ。

2002年12月05日(木)

宝物 / リカ

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