暑いけど夏だもの、とは思えても、暑いけど春だもの、とは思えない、などど悪態をつきつつ早足で進む。今日の気温が高いのか、私の体温が高いのか。どちらにせよ、いくら春用とはいえ何故スーツを選んだのかと後悔。相手を見つけた瞬間にその想いはさらに深まって、もっと薄着にすればよかったと再び後悔。
相変わらず、きれいに焼けてるなぁ。肌も髪も。くたびれたTシャツから覗く腕とか首とか。他人なんて見えてない、みたいな生意気そうな目元とか。その人が私に気づくまでの20秒、私はじーっと相手の変化を観察していて、変わったとか変わってないとか、そういう判断を私の側だけで終わらせてしまうのってバカらしい、って思えたとき、「なおちゃん!」と名前を呼ばれて、変化の有無を確認しなくちゃ躊躇するくらい、逢うのって久しぶりなんだと思い出す。
って、そのまま言ってみたら、その人はケラケラ笑って、もしも自分が先に君を見つけたとしたら同じように確かめたと思う、と言った。そして、日本ってこういう匂いだったっけ?、と呟いて鼻をくんくんして、香水変えたでしょ?と私へと鼻先を向ける。うーん、たぶん変えたかも。ブルガリのオムの何とかだよ、きっと。
ホントのこといおうか?ここ何年か、今日までにあったホントのことを。と、その人は言う。そういう長くなりそうな種の話をするのにふさわしくはない時間帯だよね、と返すと、まぁ、どうでもよいじゃん、今から話そう、と。うん、確かに。今から話し始めれば今日中に終わるかもしれないし、もしかすると今日の終わりには、ホントのことをいえてるかもしれない。