マトリョーシカが姉妹を失くして ただのみにくい娘になったら 両手いっぱいに枯葉を抱えて ここまで駆けて来て びっくり箱の焚き火をたいて おとぎ話を見せ合おう 王子様はハリボテ 鐘の音はたまねぎを切る包丁の音 きみの泣き方はとても滑稽で だからとても好きだった 気味の悪いことしか起きない 毎日の中で 割れた花瓶に魔法をかけたら わたしになった おもてとうらを入れ替えて 足りない花にもたれて眠る きみはずっと泣いててね だってあんまり滑稽だから
遠い町で文明は砕けて 顔を失くした子どもたちが 廃墟の上を跳ね回っている 鉄くずばかりお腹にかかえて 海に落ちたら沈んでしまうよ でも海に寝床はない きみのベッドは廃墟 ボルトとナットがきらきらして 汗の光にまじる この手においで 抱きとめるから 文明と手を切って 鬼ごっこをしよう 鬼はいないから 足はどこまでもたくましくなり もう終わろうよと 隠れただれかが声を上げ 時間がそれを追い越していく
口のききかたを知らない おとなたちがわらい お腹のからっぽになった マトリョーシカは廃墟を飲み干す 消化しないまま夜は更け やがてすべてはサーカスになる 目の下の赤い曲芸師の一群が 晴れやかに押し寄せて バウンドして はじける 脱ぎ捨てられたスパンコールの ガウンを誇らしげにはおって わたしはひとり空中ブランコに 腰掛けて考える 花瓶だったころ 花が無かった 道端に捨てられて 雨水を漏らしていた 花があれば すぐにうつわになったのに
サーカスのあと 散らばったスパンコールを拾い集めて 世界中のおとぎ話を ノートにうつして みなしごのマトリョーシカと 待っているから 駆けて来て 空中ブランコの向こう岸を だれにもわたさないから 落っことさないから きみにいちばん似合う色を 一晩かけて考えよう 拾い集めたスパンコールで とっておきの衣装をつくろう あきれるくらい はれやかなやつだよ
一張羅を誇らしげにまとう きみを飾るうつわに還って はじめて満たされる瞬間に おもてとうらを取り戻して ぐっすりと眠る きみの寝息をかんじながら 夢も見ずに眠る 燃え盛る焚き火が 全ての枯葉を風に返して 空っぽだったマトリョーシカも ほのおのなかで薪に還る 廃墟の上で きみの寝息が 土の底へと沈んでいって やがて深い水脈に まじってゆく
とても滑稽な 泣き顔が 好きなんだよ 好きだったよ
サーカスが 跡形もなく 消え去ってしまう前に 駆けて来て ぐちゃぐちゃの泣き顔で がむしゃらに来て ここまで来て 抱きとめるから この手に来て
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