わたしたち何も一緒じゃなかった だからダンスした ダンスして抱き合った 手足がばたばたしておさまらなくて 痙攣 心臓が跳ね上がり きみが雄たけびを上げる わたしは笑いころげてしまう 知りたかったのは 皮膚を超えた向こう側で何が起きているのか きみがほんとはどこにいるのか きみの中にある幾すじもの道を ひたすらに進んでいく一群が抱えていた 景色がいったい何だったのか 捕まえたくて足は地面を押し返す
たくさんのちいさなわたしと たくさんのちいさなきみが 輪になって手をつないだ 赤かったり白かったり黒かったり みつあみだったり坊主だったりちぢれてたりするわたしが口々に 歌をうたいながら踊ってる 手を取って ほら きみは まるで高いところからやってきた だれもしらないくにの使者 読めない手紙を戸口に挿して 音も立てずに去っていくみたいに 聞いたこともない旋律で 飛び立ちそうに眼を透き通らせて ちいさなわたしの肩と肩に手を置いた だからわたしは いっそう強く手あしを揺らして 空気がふるえるのを 全力で受け止めるようにした うまれるまえの ほんのかすかな発熱が まだ目に見えない隙間に残っているのを 思い出したから
もうなにひとつ 説明したくないの 楽譜だとか地図だとか辞書だとかレシピだとか ぜんぶぜんぶ放り投げたあとに まぶたに映った景色 それだけを携えて
だだひろい空を 飛行機雲が絶え間なく横切っては消えていく みんな 通過して行くこの一点で ダンスする ようやく温まってきた指先でせいいっぱい 空を切り裂きながら だれもみたこともないけれど だれもが一目でそれだとわかるステップで
踊ったら こどもたちがついてきた たくさん たくさん みんなとてもきらきらとして 誇らしげだ ばらばらの手足で ばらばらのステップで 喉の奥から覚えたこともない音楽をこぼして ただ 触りたかったの ちいさなわたしがからだじゅうで きみのダンスを祝福する 輪になって 手をつないで なんて軽やかなんだろう 一番好きなステップを踏んでね わたしは飽きるくらいおしりを振って こどもたちがみんなそのあとに続いて もう飛び立たずにはいられない
飛行機雲が消え続けている あの窓からこちらを眺める瞳が 気づかないうちに濡れているのを なにも知らないこどもたちの まっすぐあげた雄たけびが 飛行機を貫いた そのぽっかりとあいた点から 見知らぬだれかのこぼしたしずくが ひかりみたいにふってきて わたしときみと わたしたちときみたちと こどもたちの頭をきらきらとさせた なんて 軽やかなんだろう もうどこへでも行けるから いっそう強く足を鳴らした きみのてのひらが肩に触れて いとしくて ダンスした ダンスして抱き合った それから強くステップを踏んで わたしたちはどこへでもたどりつける
まぶたに映った景色 なんてまぶしいんだろう それだけを携えて わたしは踊りつづける
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