きのう わたしはわたしとわかれた 夏のおわり 歩道橋は常に揺れていて 行き交う車は皆 一様に歪んでいる あいた窓から一瞬指さきがこぼれ 空き缶が捨てられる ミルクの足りないコーヒーの最後の雫があらわになり アスファルトのでこぼこの底に落ちていく その上をいっせいに越えて行く車たち 空き缶はすぐに見えなくなる
夏が盛りなら 焼け付いた屋根に裸足で飛び乗りたい ヤケドヤケド騒いで 金属を簡単にへこませながら 飛び移ってあのボンネットに 汗がすぐに蒸発して 影 点になって 足のうら焦がして けれど夏はもう 頂上を失くしている 驚くほどになだらかに 日々をやり過ごすように
わたしはわたしにいった カーテンをしめて 窓を薄くあけてごらん わたしはそれにしたがった 外から降ってくる声と してのわたしの意思 生ぬるい風が速度だけで 涼しさを運んでくる カーテンの揺れるすそだけが 降り来る声に逆らって 外へ外へと逃げていく
去っていくものを惜しむことはない 褪せていく緑すら予感に満ちている けれど居ると居ないが矛盾しながら 編み上げたレースのハンモックに 引っかかったまま落ちそうにない何か ちいさないきものの羽が 震え止まずにいて ただきっぱりと 光ばかりを撥ね退けた わたしたちはみんな予感の子ども カーテンをあけると 故障した信号の下で 遠くまで連なる車の列が いっせいにこっちを見て 溶け出した 原色の塗料が道に染みていく 通りは無音 信号は透明で 始めからなかったように わたしはわたしの手をはなす 通り過ぎてきた夏の頂上へと 全力でよじ登るわたしの背中が やがて一点に立ち そのまま 向こう側へと転がり落ちて行く
窓をうすくあけて 声 カーテンを閉めて すりぬけた風が耳たぶにとどく
向こう側で 尻もちついたの 地響きがして わたし わたしの頬を全力でひっぱたいた
みんな予感から生まれた きのう わたしはわたしとわかれた
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