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■ メモーラスト
目覚めると、あたりは蒼かった。こんなときに目が覚める事がないあたしは、一瞬何がおこったのか戸惑ったけれど、なんの事ではなかった。 まだ、明け方なんだ。
はっと気がついて、がばっと起き上がった。たしか、昨日はベットの横でベッドによりかかって寝たはずだった。だけれど、今あたしはひとりで布団に包まって寝ている。寝ている部屋は同じなのに、場所が違った。 しかも、隣にいるはずの人が、いなかったのだ。
起きるのが遅かった……? それとも、明け方な気がしていたけれど、今は夕方なのだろうか。もうすぐ明るくなるのではなく、真っ暗になるのだろうか。 あたしは、混乱して頭がパンクしそうになった。 とにかく起きなくちゃ! とかけられてた毛布を横にしてばさっとひるがえしたら、同時に目の前のドアがあいた。 「え……」 「あ、起きたんだ。まだ明け方なのに、珍しい」 ドアをあけたのは、隣にいたはずの部屋の主。Tシャツに着替えていて、頭にタオルをかぶって、濡れた髪の毛をがしがしと拭いている。 「おれちょと前におきてさ。とりあえず、風呂入ってきた」 呑気にいっているその人を見つめて、あたしは目頭が熱くなった。もう消えてしまったんだと思ったのに、あたしの気なんか知らないで呑気につったっているんだもの。 あたしがじーっと見詰めていると、それに気がついたのか不服そうにこちらを振り返った。 「ぐっすり眠ってたからさ、ベットに寝かしてやったんだぞ。感謝してもいいのに、なんでそんなに睨むん……って」 ばかだ。おまえは馬鹿ものだ。 あたしは、ほっとして安心したのと、こみ上げてきた寂しさを我慢しきれなくて、目から涙を落とした。不思議なもので、一度出てしまったものはしばらくは止んでくれない。あとからあとからあふれ出てきて、下を向いて隠そうとしたけれど、隠し切れなかった。 「おいおい、なんで泣いてんだよ」 「知らない。あたしに聞かないでよ」 ベットにぺたんと座っているあたし。その顔を覗き込むように、彼はベッドの横に回ると、はしっこに腰をかけた。 「知らないってなー」 最初はどうしたらいいもんか悩んでいたようだが、やがて頭をなでてくれた。 「泣くなよ」 妙に色気のある、やさしい声。なんどもなでてから、彼はゆっくりと顔の方に手を下ろした。耳にふれられたと思ったら、ぐいっと顔をあげさせられた。 「な……」 驚いている間もなく、彼はあたしにキスをした。 「んっ!」 突然のことに、妙な声が漏れる。 そんなことはおかまいなしと、彼はキスを繰り返した。最初は、やさしくついばむようなキス。次は、長く吸い付くようなキス。そして、あたしの口を割って、深く深く口付けをしてきた。 「んー」 こんなキスをするのははじめてで、あたしはその感触に戸惑いを隠せなかった。何がおこっているのか理解できない。必死で逃れようとしたけれど、それを許してくれるほど、甘い人ではなかった。 がっしりとした腕は全く離れない。体も押してみても、口はまるではめ込んだようにくっついて離れなかった。 やがて、あたしの体に力が入らなくなった。体がほてって、ぼーっとする。 「最後だから、もう少し」 離れたと思った唇は再び塞がれて、あたしたちはベッドに埋もれた。
2003年06月24日(火)
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